女性の活躍と情報開示で国際競争を生き残れ

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2013年09月04日

  • 平井 小百合

女性の積極的登用が経営戦略の要として取り上げられている。政府は2005年に「2020年までに指導的地位にある女性を30%まで高める」を打ち出し、男女格差の是正に取り組んできた。さらに、安倍内閣は2013年6月、「日本再興戦略」で女性の力を最大限活かすことを成長戦略として打ち出した。男女均等雇用法から約30年、いまだに日本では女性の取締役はおろか、管理職も少ない。勿論、育休制度や時短制度の導入の他、大手企業には社内に保育園まで創設する企業もでてきており、全体としては良い方向に向かっている。しかし、まだまだ待機児童が多く、保育園等の社会整備は不十分であるのは否めない。

「The Global Gender Gap Index」という世界的に見て、男女が平等な国ほどランキングが高いという指標がある。そこでは、トップはアイスランド、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンと北欧諸国が占める。北欧諸国が上位に占めるのは、いくつか理由がある。働く女性を助けるための社会制度が充実しており、税金が高くて夫婦共稼ぎでないと生活も苦しい。しかし、社会整備が未整備とはいえ、日本のランキングは、なんと101位。米国は22位、英国は18位だ。

さらにノルウェーでは、2006年に会社法で取締役の40%を女性にしなければならないと規定された。その背景には、大学生の6割が女性であるにもかかわらず、企業の取締役となる女性の数は非常に少なく、1993年では僅か3%、2003年では7%であったことが問題視されたためだ。企業には2年間の猶予が与えられたが、この法律に抵触すれば、裁判所の命令により、企業は清算されてしまう。これまでに清算された企業はないものの、厳しい法律である。ノルウェーに続き、アイスランド、スペイン、フランス、イタリア、ベルギー、マレーシア等も同様のクオーター制を取り入れた。

クオーター制や女性管理職の数値目標がないと企業は動かないのだろうか。将来の自社の行く末を考えて欲しい。人口が減少するなか、日本では優秀な女性が活躍していくことは、企業が持続的に成長していくなかでは不可欠な経営戦略なのである。「男性が指導権を握り、女性はサポートする」、そういう社会はもう終わっているのだ。さらに重要なのは、育休や時短制度などに対する現場の意識であろう。例えば、「時短だから、責任ある仕事は任せられない」というのは、キャリアアップを志す女性のインセンティヴをそぐ。しかし時短でしか働けないと支障がある職種であれば、現場としては仕事を任せられないというジレンマがある。このような場合でも、時短制度の活用が終わり、フルタイムで復帰した時に、キャリアアップのステージに戻るチャンスがあれば、インセンティヴをそがれることもないだろう。「時短や育休をもらえて、キャリアアップの道からもそれない」というのは、フルタイムで働き続ける社員に対して後ろめたい気持ちになるかも知れない。また、周りも不公平という気分は拭いきれないかも知れない。しかし、これは女性云々の問題ではない。男性も育休や時短を取りやすくすべきだろうし、団塊の世代が70代に突入するなか、社員は男女の区別なく介護の問題も抱えることになる。そして、どの企業においても社員の高齢化は大きな問題となっている。長時間労働の縛りをやめ、生産性をあげ、ワークライフ・バランスある働き方を許容する柔軟な取組が必要だ。男女、高齢者、また国籍の別なく、優秀な人材を配置する適材適所は企業経営の要である。

2013年4月、内閣府では、東京証券取引所とともに、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」での女性に関する開示を要請した。これを受け、企業は活発に動き出している。女性が働きやすい会社であることを積極的に情報開示していけば、優秀な人材への訴求効果となる。さらに、女性を含め多様な人材は多様な価値観を提供し、多様な市場ニーズへの対応が可能になる。また、社会的責任投資(SRI:Social Responsible Investment:環境、社会、ガバナンス等の非財務情報を考慮する投資)に積極的な投資家もおり、多様な人材雇用の面からも企業を評価するため、資金調達が容易になる。

これからの国際競争を企業が生き抜くためのキーワードは、女性も含めた多様性、適材適所と積極的な情報開示だ。

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