アベノミクスは株主総会をどう変えるか?

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2013年06月25日

今週は、多くの上場企業が株主総会を開催する。6月27日は、いわゆる株主総会集中日となり、3月決算会社のおよそ4割がこの日に株主総会を開く。

今年の株主総会では、社外取締役を選任していない企業の社長(会長・CEO等が取締役候補者を決定しているならば会長やCEO等)の取締役再任議案に多くの反対票が出るものと予想される。機関投資家が保有している株式に関する株主総会議案について賛否の推奨を行っている議決権行使助言会社の最大手が、社外取締役の有無を、社長の選任議案の賛否を判断する要素とすることにしたからだ。これは、既に上場企業の過半が社外取締役を選任している事実や諸外国との比較感を踏まえ、日本企業においても社外取締役の選任は当然であるとの考えに基づくようである。

来年以降の株主総会の動向を見る上では、アベノミクスの影響を考えなければならない。アベノミクスでは、成長戦略の一環として、社外取締役の導入促進や機関投資家の株主行動活発化が意図されているからだ。社外取締役の導入の促進に向けて法改正が行われるとすれば、そうした動きを先取りして、社外取締役の導入を期待する投資家の声が一層強くなることが予想される。それ以上に株主総会の運営に影響を与えそうなのが、機関投資家の株主行動活発化である。「企業の持続的な成長を促す観点から、幅広い範囲の機関投資家が企業との建設的な対話を行い、適切に受託者責任を果たすための原則について、我が国の市場経済システムに関する経済財政諮問会議の議論も踏まえながら検討を進め、年内に取りまとめる。」(※1)と成長戦略は記している。ここで検討される原則は、日本版スチュワードシップコードとも呼ばれている(※2)。元祖のスチュワードシップコードは、2010年に英国で策定され、2012年に改定を経ている(※3)

英国のスチュワードシップコードは、7つの規定からなり、「投資先企業をモニター(監視)する」、「適正と考えられる場合には他の投資家と協業する」、「明確な議決権行使方針を設定し、行使結果を公表する」ことなどを機関投資家に求めている。これを順守する機関投資家は、投資先企業の株主総会議案を精査して、適正と思える判断を下し、その結果を公表するということになる。日本でも2010年から、投資信託や投資顧問などの機関投資家は、株主総会における議決権行使の集計結果を開示している。集計結果とは、たとえば投資先100社の株主総会で、取締役選任議案として何人が候補者となり、それに対して何人に賛成票を投じ、何人に反対したかを集計して開示することをいう。特定の会社の特定の取締役候補者の誰に賛成し、誰に反対票を投じたかまでは開示されない。これを個社の一つ一つの個別議案の賛否まで公表するとなると、機関投資家の議決権行使結果が外部からの評価を受ける可能性がある。様々な立場から機関投資家の株主総会議案に対する判断の適否が評価されるとすれば、委託者以外の者への配慮が議決権行使に混入する恐れがあるのではないだろうか。結果的に反対投票を増加させる方向に作用するかもしれない。

米国では、機関投資家の議決権行使結果の個別開示が2004年から行われている。米国SECに登録する機関投資家は、議決権行使結果を詳細に開示しなければならないのである。米国での開示結果を見ると、機関投資家が投資先企業の株主総会議案に反対票を投じるのは、まったく珍しいことではないことがわかる。取締役選任議案への反対が過半となることもあれば、経営の変革を意図した株主からの提案議案に50%を超える賛成が集まることもある。日本でこのようなことが起これば、経営者は自分の目指す企業経営を実行できなくなってしまう恐れが強まるだろう。しかし、米国では、株主総会の投票結果が企業経営に直接的な影響を及ぼすことはあまりない。取締役選任議案は、通常Plurality Voting(相対多数選挙)であり、定数を上回る候補者数でなければ、全員選任されるからだ。さらに、米国では、いまだにProxy Accessが実施されておらず、株主が取締役候補者を擁立することは、極めて困難だ。つまり、取締役選任議案でどれほど多くの反対票が出ても、候補者を落選させることはできないし、株主が取締役候補を提案して、会社側の候補者と争うことも難しいのである。Majority Voting(過半数選挙)の実施、Proxy Accessの導入は、米国企業ガバナンスの大きな論点として議論され続けてきた。また米国では、株主提案のほとんどがNon-Binding(非拘束)決議であり、どんなに賛成票を集めても、経営者はそれに従う義務を負わないのが通常だ。米国の株主提案は株主の意向を測る一種のアンケート調査としてしか機能していない。この「アンケート調査」の多数に経営者が従うことは当然あり得るが、そうしなければならないというわけではない。

つまり、株主総会における反対票(株主提案の場合には賛成票)の量が、実際の経営に与えるインパクトは、日米で大きく異なるである。こうした事情を考え合わせると、アベノミクスでの日本版スチュワードシップコード導入は、企業経営における株主総会の重みを増すことになるだろう。

参考レポート:
機関投資家による株主総会議決権行使結果開示(ESGニュース 2013年5月10日)
米国企業ガバナンスの不思議な合理性(大和総研コラム 2010年12月15日)
株主総会集中日の決まり方(ESGニュース 2012年5月18日)
企業ガバナンス改革の国際動向~引き続き経営者報酬問題へ高い関心~(『大和総研調査季報』 2012年夏季号(Vol.7)掲載)
アメリカの株主提案—支持少ない環境・社会関連の提案—(ESGニュース 2012年8月16日)

(※1)日本経済再生本部「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」(平成25年6月14日)
(※2)日本経済再生本部 産業競争力会議 第4回産業競争力会議 配布資料1「産業競争力会議 『産業の新陳代謝の促進』」(テーマ別会合主査 坂根正弘)(平成25年3月15日)
(※3)Financial Reporting Council “UK Stewardship Code

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政策調査部

主席研究員 鈴木 裕