マンハッタンを青い自転車が埋め尽くす

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2013年06月19日

  • 笠原 滝平

最近、ニューヨーク市では青い車体の自転車が急増し、街を彩っている。これは、ニューヨーク市とCitibankなどが共同で始めた事業でCiti Bikeというものだ。ニューヨーク市の至る所に専用の駐輪場があり、複数の青い自転車が停まっている。自転車を借りて観光する、これだけでは普通の貸自転車と変わりがないが、特有の仕組みがある。

まず、貸し出しは無人で行われる点が挙げられる。各駐輪場でクレジットカードなどを使うことで、一日、もしくは一週間の使用権を購入することができる。使用権が有効な間は、一回に最大で30分間乗り続けることができ、制限時間内にどこの駐輪場でも良いので返却すれば良い。

使用権が有効な限り、この使用権は何度でも行使できる。従って、自転車をメインに観光するのではなく、観光地と観光地のかけ橋的な意味合いが強いように感じる。実際にマンハッタン南端のウォールストリートからミッドタウンにあるグランドセントラル駅までこのCiti Bikeを乗ってみた。時間は40分程度かかり、一度途中の駐輪場に停め、使用可能時間の延長を行った。一部を除いて平坦な道が多いため、思っていたより楽に移動ができ、地下鉄、バス、タクシーなどの公共の移動手段に自転車が加わる予感がした。環境に優しく、渋滞や運行遅延に巻き込まれる心配もないため、比較的時間の見通しも立てやすいだろう。また、自転車に乗っていると隠れ家のようなお洒落なカフェなどが目に入ってきた。これまでは行動範囲が地下鉄の駅を中心としたエリアになっていたが、自転車によってそのエリアが広がった印象がある。そうしたエリアの活性化にもつながるかもしれない。

しかし、メリットばかりではない。半官半民の事業ということで、専用の駐輪場は公道の隅に突然作られたりする。近隣住民への説明やヒアリングなどなしに作られるケースもあり、駐輪場付近ではクレームが出始めていると聞く。また、実際に乗ってみて車、歩行者それぞれに対してひやりとする場面もあり、事故の危険性を感じた。走り出すまで忘れていたが、ここニューヨーク市は世界最大の都市の一つであり、狭い地域に車や人が密集している。街全体として自転車の存在をあまり認識できていないことも影響しているかもしれない。

新たな取り組みにはメリット、デメリットが付きものである。しかし、宣伝としてCitibankの名前は街の至る所で見られるし、またニューヨーク市にとっては財政負担なく、新たな交通手段の提案ができる。今後、Citi Bikeがニューヨーク市の交通手段として根付くかは不透明だが、交通手段の選択肢の増加は街の発展として前向きに捉えられるだろう。

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