木材輸入国に求められる違法伐採対策

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2013年05月21日

  • 大澤 秀一

国の法令に違反して森林伐採を行うこと(違法伐採)は、森林の生態系に被害を与え、地域社会から重要な収入源を奪い、持続可能な森林経営を阻害する要因になっている。違法伐採は、東南アジア(インドネシア、マレーシア等)やロシア極東地域、中部アフリカ(カメルーン、ガボン、コンゴ等)、アマゾン川流域(ブラジル等)などに多いとみられており、政治的・経済的混乱等によって法執行体制が弱まっていることや、木材輸出が大きな利潤を生んでいること等が背景にあるとされている。したがって、違法伐採を効果的に無くしていくには、これら木材生産国側の取組みに加えて、木材消費国側の対策が重要となってくる。

我が国は世界有数の木材消費国であり、また同時に木材輸入国でもある(※1)。上記の違法伐採が多いとみられている地域からも大量の木材を輸入しているため、日本政府は、2005年7月に英国で開催されたグレンイーグルズ・サミットで、「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」(※2)の対象物品に木材を追加して違法伐採対策に取組むことを表明した。グリーン購入法は、国や地方公共団体などの公的機関が率先して環境物品等(環境負荷低減に資する製品・サービス)を購入することを定めた法律で、2006年4月から、合法性及び持続可能性が証明された木材及び木材製品の優先的な調達が義務付けられた(※3)。合法性及び持続可能性の確認方法としては、森林認証(※4)を活用する方法や関係団体の認定を得て事業者が証明する方法、個別企業独自の取組みにより証明する方法などがある(※5)。2009年2月には、グリーン購入法が見直され、間伐材や森林認証を受けた森林から生産された木材から製造されるパルプも、古紙と同様に、環境物品として評価されることとなった。民間企業も自主的に取組んでおり、住宅、製紙、文具、オフィス家具等の企業や業界が、合法性及び持続可能性が証明された木材及び木材製品の調達方針を掲げるなどしている(※6)

一方、米国では2008年12月に「改正レイシー法」(※7)が施行され、輸出入を含む流通過程で製品の品名、価格、数量と共に合法的に伐採された木材の産地国と木材の樹種を申告しなくてはならなくなった。EU(欧州連合)でも米国と同様に法的拘束力を有する「EU木材規制」(※8)が2013年3月に発効し、違法伐採された製品をEU域内で販売することが禁止された。日本のグリーン購入法で合法性の確認方法として認められている森林認証はEU木材規制に準拠しているとはみなされず、取引業者には厳しいデューディリジェンス(※9)が義務付けられている。さらに、オーストラリアでも「違法伐採禁止法」(※10)が議会において可決され、2014年11月から施行されることになっている。これら3国・地域とも、違法伐採された木材の取引に対して法律で罰則を定めているところが日本と異なる。

欧米等が違法伐採に対して厳しく臨む背景には、不当な廉価で輸入される木材が市場を歪め、自国の林業における持続可能な森林経営を著しく阻害するものであると強く認識されていることもある。我が国でも国内林業を再生し、2020年に木材自給率50%以上を目指した取組みが始まっている(※11)。欧米等に匹敵する水準の法律が、国内に早期に整備されることが望まれる。

(※1)木材輸入量は合板等で世界第2位(451万㎥、2010年)、製材は第3位(同641万㎥)、産業用丸太は第7位(同476万㎥)である(国際連合食糧農業機関調べ)。これを反映して、木材自給率は26%(2010年)と低い(林野庁ウェブサイト)。
(※2)グリーン購入法は2000年に成立し、2001年から施行された。環境省ウェブサイト
(※3)林野庁ウェブサイト
(※4)適切な管理がなされた森林と、そこから伐採・搬出された木材を認証すること。複数の制度がある。FSCは世界共通の基準に基づいた国際的な制度、PEFCは各国独自の制度が参加する相互認証制度、SGECは日本の森林状況に応じた日本独自の制度。
(※5)林野庁ウェブサイト
(※6)製紙業界の取組みは、違法伐採対策のウェブサイト「合法木材ナビ」を参照
(※7)米国政府ウェブサイト
(※8)欧州連合ウェブサイト
(※9)デューディリジェンス(duediligence、適切な注意)には、木材に関する詳細な情報や、当該情報に対するリスク評価とリスク回避等が求められる。
(※10)オーストラリア政府ウェブサイト
(※11)林野庁ウェブサイト

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