預金への課税という選択肢

キプロスは特殊だが、、、

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2013年03月28日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

最近の国際金融市場の波乱要因だったキプロス問題は、ようやく3月25日、EU、ECB、IMFの3者がキプロス当局と救済の枠組みの合意に達し、沈静化の方向となってきた。3者が100億ユーロのファイナンスを支援するという条件として、キプロス側は、過大な金融産業をEU平均並みにすることなどの方針を立てている。

キプロス問題はアイスランド問題に似ているが、より深刻であろう。小国が金融産業を振興したものの、一気に肥大化し、資金の向け先が、がたついたことによって一気に危機に陥った。どちらも国家財政の危機ではなく、金融産業の危機である。アイスランドの場合は1990年代後期から規制緩和や国有銀行の民営化を行った。アイスランドの銀行は、インターネットバンキングを利用して、英国など欧州各国から積極的に預金を取り入れ、バランスシートが肥大化していた。そこにリーマン・ショックが直撃し、一気に金融危機に陥り、銀行部門の国有化を行わなければならない事態に立ち至ったのである。ただし、アイスランドはユーロ圏ではないため、自国通貨クローナが大幅に下落し、それが外国からの観光などを含め「輸出」を回復させるという構図で経済の回復への道筋をつけている。これに対してキプロスはユーロ圏であり、自国通貨安を通じた国際収支改善という解決ルートが閉ざされている。

今回のキプロス支援でのポイントとなった預金課税は、ロシアなど外国から流入した富裕層の資金に金融システム立て直しのコスト負担を「応分に」求めようとするものである。これは支援する3者側の求めでもある。

合意が伝えられたのち、キプロス政府はキプロス銀行にある残高が10万ユーロ以上の預金に対して残高の20%の税金をかける、その他の銀行においては4%の税率とすることを検討しているとの報道がされている。3月19日に議会で否決された当初の案に比べ10万ユーロ以上の預金とするなど実質的に外国人の富裕層に大きな負担を求めるものとなっているため、議会の承認は得やすいと考えられる。10万ユーロが閾値となっているのは預金保護の対象を10万ユーロまでとしているためである。いわば高額預金への課税は金融機関を破綻させて預金を清算する代替策であり、事後的な預金保険料部分と考えられないこともない。

キプロス政府は銀行からの資金流出を防ぐため、大口の決済取引を凍結し、国外への送金を制限し、キプロス中央銀行が決済を認可する措置を取っており、事実上大口預金の封鎖を行っている。そうでなければ、預金課税を検討していること自体が、預金の取り崩しを招いて金融パニックの引き金になってしまう。こうした方法を取っていることも外国の富裕層の預金をターゲットにして、預金への課税を可能にしようという方策の一部であろう。

キプロスにはこうした特殊性があって、いわば非常手段として預金残高に課税するということになった。キプロスの場合は金融産業の危機である。ソブリン危機に対しても同様の方法を使うことができるだろうか?ソブリン危機は借り手である国家と貸し手である国債保有者との力関係が、国際収支の悪化など資金需給関係の変化から決定的に後者に傾き、雪だるま式に金利支払いが増加して国家財政が破綻してしまうリスクが顕在化する事態である。非居住者も含めた金利への課税強化は資金逃避につながるので、実質的に預金封鎖をした上で残高に課税するのは、特に国外の資金が貸し手として大きな位置を占める場合には、最後の手段となりうるかもしれない。ただし、ソブリン危機の場合は、国債が問題の中心である。仮に国債について保有残高に課税すればデフォルトと同義になってしまうのではないか?むしろ利子への課税強化が取りうる最大限の方策であるかもしれない。しかし、流通する国債の利子に非居住者の受け取りも含めて高い税率で課税強化すれば、国債からの資金逃避が起きてさらに国債の市場金利が跳ね上がる可能性が出てくる。金融資産課税の方法にはおのずと限界がありそうだ。

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