EUのFTA戦略

2013年3月26日

FTA(自由貿易協定)の締結交渉があちらこちらで活発化している。日本が米国を盟主とする環太平洋諸国との経済連携強化を目的にTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加を表明したのは記憶に新しいが、日本はこれとは別に中国、韓国ともFTA交渉を進めている。また、日本とEU(欧州連合)とのEPA(経済連携協定)交渉も近々開始される。一方、米国もEUとのFTA交渉を開始した。

なぜ世界各地でFTA交渉が活発化しているのだろうか。もともと関税など貿易に関する国際条約としては、その名もずばり「関税及び貿易に関する一般協定(GATT)」という1948年に発効した多国間条約が存在した。これは、保護貿易主義が第2次世界大戦の遠因となったとの反省に基づき、自由貿易の促進を目的に締結された条約である。1995年にGATTを発展的に解消して世界貿易機関(WTO)が設立され、引き続き関税その他の貿易障壁を軽減し、貿易における差別的待遇の廃止をめざした。ところが、世界共通の貿易ルールを作ろうとのWTOの試みは、従来、世界貿易を牽引してきた先進国と、急速に台頭してきたエマージング諸国との対立の中で行き詰まり、2011年末以降は交渉が停止された状態にある。この中で、二国間、あるいは多国間のFTAが重視されるようになっている。

FTAの先駆け的存在と言えるのがEUであろう。1950年代に始まった石炭、鉄鋼などの天然資源の共同管理を端緒とし、やがて関税同盟を結成したEUは、加盟国間の貿易活性化を狙って、1980年代以降は非関税障壁の撤廃にも取り組んでいる。他方でEUは対外的にも自由貿易推進に熱心に取り組んできた。当初は近隣の欧州諸国との関税同盟締結から始めたが、その後、アフリカ、中東、中南米などの諸国とFTA締結を進めている。2013年2月に欧州委員会が作成した「EUのFTAの現状」とのメモによると、現在、発効しているEUのFTAは28あり、発効待ちが9つ、交渉中が9つとされている。EUのFTAが主としてエマージング諸国と締結されてきたのは、新たな市場の開拓を目的としてきたためである。2000年前後からはアジア諸国とのFTA交渉が重視され、その最初の国として韓国とのFTAが2011年7月に発効し、2012年12月にはシンガポールとのFTA締結が続いた。ASEAN諸国ではほかにマレーシア、ベトナムとFTA交渉を継続している。

そのEUが最近になって米国、日本という、先進国でしかも以前から緊密な貿易関係がある2か国と相次いでFTA交渉を開始した。米国、あるいは日本とEUとの間の関税は平均して3~4%とされており、その引き下げ効果は限定的と予想される。特に日本との関係では、EUが日本に輸出する工業製品には関税はほとんどかかっておらず、日本がEUに輸出する自動車や液晶テレビなどには10%前後の関税が存在している。このため、日本サイドではこの関税引き下げによる輸出拡大効果が期待される一方、EUの自動車産業などはFTAに対する警戒が強い。それにも拘わらず、EUが日本とのFTA交渉を開始したのは、「非関税障壁」の撤廃を最大の目的としているためである。非関税障壁とは、製品規格、安全基準、公共部門の資材調達など多分野にわたる。たとえば自動車の安全基準で欧州車は日本の基準に適合させるために、追加のデータ提供やテストが必要となっているが、これがなくなれば、より日本という市場で販売しやすくなると期待している。

EUサイドは日本との交渉に際して、「1年後に非関税障壁の撤廃で進展がないと判断した場合にはFTA交渉を打ち切る」との但し書きを予め入れている。これはEU内で関税引き下げによるマイナス効果を懸念する業界への保証という側面が強い。ただ、同時に、FTAが双方にとってお互いのマイナス面を数え上げるものになっては、FTAを締結する意味はないということも意味しているようにも思われる。EUも日本も、人口高齢化が進み、自国の市場の今後の成長に多くを期待できないという共通点を持つ。だからこそ、モノやサービスの流れを活発化させ、新たな成長の可能性を高めることが重要なのではないかと考えられる。

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