夢のある公共投資を

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2013年03月25日

  • 中里 幸聖

夢やロマン、冒険心や挑戦心、遊び心といったものが、古来より前向きな方向で人間を動かしてきた。そういったものが社会や経済に活力を生み、歴史を紡いできた。

西洋近代生成のきっかけの一つとなった大航海時代も、黄金の国ジパングへの憧れが背景の一つにある。もちろん、イスラム勢力の台頭に伴うインドや東南アジア産の胡椒等のスパイス価格の高騰も背景の一つであるが、人間は合理的な理由だけで突き動かされるわけではない。むしろ感情的な理由の方が行動の推進力ともいえる。なお、株式会社の原型には西欧各国が設立した東インド会社等に由来する部分が含まれるが、これも西洋による大航海の副産物である。

資本主義の発生や発展については諸説あり、マックス・ヴェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」では禁欲や合理的精神がキーワードとなっている。一方、ケインズはアニマル・スピリット、シュンペーターは創造的破壊といったキーワードを用いたが、これらは冒頭に挙げたキーワードと相通ずるものであると考える。おそらく、資本主義経済が運営されていくためには合理的精神が存在しないと回らないが、発展していくあるいは衰退しないためには、広い意味での夢が必要なのではないだろうか。そういった意味で、シカゴ学派が中心となっている合理的期待が経済学の主流になって以降、表面的な統計上の数値は別にして、人々の生活が豊かになるといった本質的な意味での経済は先進国では停滞し、世の中がつまらなくなった気がする。合理的期待などの仮説をあまり気にしていない地域の方が、活力があるのではなかろうか。やはり夢がなくては経済も投資も発展性がない。

広義の投資は資本主義経済の根幹をなすものであり、公共投資もその一部に含まれる。わが国では、無駄と思われるようなハコモノ投資がある時期に盛んであったイメージがあり、公共投資にはマイナスイメージを持つ人も少なくないようである。しかし、近代資本主義経済においては、公共投資等により構築されるインフラストラクチャー(以下、インフラ)は経済活動の基盤であり、新興国ではこうしたインフラの整備・拡充が重要な課題となっている。

一方、わが国ではインフラは概ね整ったが、その老朽化が懸念され、維持・更新投資をどのように進めて行くかが大きな課題になっている。老朽化に伴う更新投資というとやや後ろ向きのイメージが纏わりついている感じもするが、どうせ必要な投資であるならば、発想を転換して、もっと夢のある投資と考えてみてはいかがだろうか。

人口減少が進行中のわが国では、現状の全てのインフラをそのまま更新することは過剰となる可能性もある。それならば、選択と集中を積極的に行い、大胆に作り直すことを考えても良いであろう。例えば、国土交通省が設置した「首都高速の再生に関する有識者会議」はその「提言書」(2012年9月)で「都心環状線等の『撤去の可能性』」も検討すべきとし、「都心環状線の高架橋を撤去し、地下化などを含めた再生」を将来像の方向性として掲げている。

幕末に日本を訪れた西洋人は、松林と白浜が続くわが国の美しい海岸線に感嘆したというが、日本列島が本来持っている自然美や祖先から伝わる伝統美と、最先端の科学技術に基づくインフラを調和させるような再構築といった公共投資であれば、夢やロマンが掻き立てられるのではないだろうか。こうした夢やロマンのある公共投資こそが、「国土強靭化」に字義通りの意義を持たせることとなろう。

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