アメリカ版・若者はつらいよ

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2013年03月12日

  • 笠原 滝平

2007年のサブプライムローン問題、2008年のリーマン・ショックを経て、アメリカ経済は大きく落ち込んだ。その後しばらく経って、アメリカ経済は緩やかながら回復の一途を辿っている。経済全体に影響力の強い個人消費はリーマン・ショック前の水準をすでに超え、ダウ工業株平均株価も史上最高値を更新する展開となっている。また、水準は低いものの長らく低迷が続いた住宅市場も改善が始まり、企業部門では鉱工業生産指数がリーマン・ショック前の水準に肉薄している。

こうしてみるとアメリカ経済は”Great Recession”とも言われた景気後退から着実に回復しているように思える。しかし、景気後退の爪あとは大きく、局所的に残存している。
ニューヨーク連銀の家計債務・信用調査によると、リーマン・ショック以降の家計はバランスシート調整を迫られ、債務残高は減少が続いていた。そのバランスシート調整が進んだため、直近の2012年10-12月期には僅かながら債務残高が増加した。雇用・所得環境の改善もあって、新規の自動車ローンや住宅ローンは堅調に増加している。また、それぞれの債務の返済遅延率も住宅ローンやクレジットカードなどを中心に低下傾向にある。

しかし、足下で学生ローンの返済遅延率が急上昇している(下図参照)。そもそも学生ローン残高はリーマン・ショックを経ても増勢が続いており、他の債務とは異なる推移を示していた。景気後退期にもかかわらず学生ローン残高が増加したのは、親の失業や所得の減少などが起こり、世帯として学費を払えなくなってしまったことが考えられる。また、学生ローンは他のローンと異なって、自己破産するだけでは債務が免除されない。さらに、学生ローンの返済遅延率が低下せず、逆に足下で上昇してしまっている要因には、雇用・所得環境に世代間格差が生じている可能性が考えられる。雇用統計を確認すると、45歳から54歳、55歳以上の失業率がそれぞれ6%程度となっているのに対して、16歳から24歳の失業率が17%程度、25歳から34歳の失業率が8%程度と、若くなるほどいまだに雇用環境は厳しい。失業率と同様に若年層の所得水準は低く、リーマン・ショック以降の増加ペースも緩慢なままだ。
マクロで見た景気回復は緩やかに進んでいるとみられるが、こうした若者の状況は住宅市場や自動車市場などに一定の低下圧力となっている可能性がある。

ローン別返済遅延率

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