アメリカ50州とグローバル化

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2013年02月13日

  • 土屋 貴裕

アメリカ以外の国々では、世界第1位の経済大国、軍事大国であるアメリカへの関心が強いだろう。「アメリカはどうなっているのか?」とはよく問われる質問である。だが、アメリカでは「隣の州や市はどうなっているのか?」から始めなければならないことがある。広い国土で気候や考え方が異なるのは当然だろうが、それらのみならず、実際の政策として税制や各種規制が異なるのである。

例えば、日本の消費税に相当する付加価値税でも税率や軽減税率、課税対象が異なる。食品は非課税だったり、一定額までの衣服は非課税だったりと、どこに住むか、どこで買い物をするかによって異なる。筆者の身近なところでは、ガソリンはニューヨーク州よりもニュージャージー州の方が安い。規制では、カリフォルニア州の排気ガス規制が厳しいことは有名だし、ニューヨーク州では独自の銃規制が成立した。オバマ大統領が再選された2012年11月の選挙では、同時に州民投票も行われ、州によって大麻の合法化や同姓婚を認められるなど、いくつのテーマが話題となった。日本の住民投票などと異なるのは、州民投票の結果を受けて各州の法律などが変わり、住民が求めるポリシーが実際の政策として反映されることだろう。このような各州の違いがあるため、アメリカ人は、外国人から「アメリカはどうなのか」という質問には答えにくいようで、「州によって異なる」と答えざるを得ない場合もあるようだ。

州の違いを連邦が覆い、州レベルの違いが標準化されることもある。例えば、1980年代には、銀行が州をまたいで支店を持てるように変わっていった。ただし、全米レベルになったのは1990年代後半と、意外と最近である。金融商品などは仕組みが標準化されると、取引の流動性が高まることで市場そのものが大きくなるきっかけになり得る。ちょうど「IT革命」と呼ばれ、情報技術が大幅に進歩する時期にあたり、ともに均一性のある対象の処理を得意とするITと金融の融合が起きたと考えられる。アメリカが国際的に優位性を持つ一助になったのではないだろうか。

一方で、州によって異なる新たなテーマは増え続け、標準化は一律に進んでいるわけではないし、地域の特性が失われるわけでもない。どこに住むのか、どこで事業を行うかの選択につながることから、企業や人の誘致などに特色が出ることになる。

アメリカの各州は独自の憲法、議会、裁判所、行政府を持ち、国民国家に近い存在であると同時に、地方自治体としての側面を持つと考えられる。こうした地域統合の話題は、EUという複数の国家の統合と同時に分離的な動きがある例や、世界各地にある関税同盟や通貨統合、さらに日本の道州制導入の議論の参考になるかもしれない。グローバル化を考えるにあたり、国同士の違いを標準化していくこと、各地の特色を出して競争力を身につけることについては、アメリカの歴史が参考になるのかもしれない。

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