「社外取締役を置くことが相当でない理由」の開示

~社外取締役の選任義務化見送りを巡る「要綱」雑感Ⅱ~

2013年1月8日

法制審議会が2012年9月に採択した「会社法制の見直しに関する要綱」(以下、「要綱」)及びその附帯決議が、ハード・ロー(法令)に基づく社外取締役の選任義務化を見送る代わりに、上場会社に対してソフト・ロー(取引所規則)を通じて(取締役である独立役員(独立取締役)を選任する)努力義務を課すことを提言したことは周知の通りである。しかし、「要綱」は、こうしたソフト・ローによる規律付けだけではなく、もう一つ、別の規律付けも併せて働かせることを予定している。それは「開示」による規律付けである。具体的には、上場会社など(その発行する株式について)有価証券報告書の提出義務が課される会社(会社法上の公開会社かつ大会社に限る)は、社外取締役がいない場合には、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を事業報告で開示することを義務付けるものとしているのである。

ここでの大きなポイントは、単に社外取締役を「置かない理由」ではなく、「置くことが相当でない理由」の開示を求めていることである。この含意が、少なくとも上場会社などは、相当の理由がない限り、社外取締役を設置すべきという点にあることは、容易に読み取ることができるだろう。

さらに、「開示」による規律付け(「社外取締役を置くことが相当でない理由」の開示)は、ソフト・ローによる規律付け(独立取締役選任の努力義務)と合わさることで、より大きな効果を発揮するはずである。すなわち、相当の理由がない限り、社外取締役を設置すべきという前提の下で、ノーブレス・オブリージュ(※1)を重んじる上場会社の大半は、ハード・ロー(法令)による「強制」がなくとも、取引所ひいては市場の期待に応えるため進んで独立取締役を選任することが期待される。もちろん、一部に、どうしても独立取締役を選任できない(しない)上場会社もあるかもしれないが、これらの会社は事業報告での開示を通じて、自社の置かれた特殊な事情(「社外取締役を置くことが相当でない理由」)を真摯に説明する。株主・投資者は、この例外的(!)な上場会社について、その説明を熟読・検証し、その妥当性を判断して議決権行使等を行うこととなる。「要綱」が思い描くのは、こうした世界であることは想像に難くない。

確かに、これは「美しい」理念(イデー)である。しかし、「美しい」理念も、現実に落とし込む過程で、色々と軋みや歪みが生じるのが世の常である。「社外取締役を置くことが相当でない理由」の開示についても、最近、様々な声が聞こえ始めている。

「『社外取締役の候補を探したけれど適任者がいなかった』なら理由になりそうだ。」
(本当に一生懸命に探した結果ですか?)
「『社外取締役を選任すると費用がかかる』なら通るだろう。」
(社内取締役よりも高報酬の社外取締役なんてめったにいないと思いますが……。)
「『社外取締役がメンバーに加わると取締役会における意思決定の迅速性が損なわれる』ならどうだ。」
(意思決定の迅速さだけが重要なわけではないと思いますが……。それに、そもそも、これまでの意思決定は本当に迅速でしたか?)
「いっそのこと『わが社には必要ない』でいこう。」
(だから、なぜ『わが社には必要ない』のかという理由を書いてくださいよ!)

もちろん、「開示」ルールである以上、内容が虚偽でなければ、直ちに違法となるわけではない。しかし、こういった「言い訳探し」が始まった時点で、当初の「美しい」理念(イデー)は、どこか遠くに消え去っていくように感じるのは筆者一人ではないだろう。

上場会社のコーポレート・ガバナンスに関して、その考え方や理由などといった定性的な事項を開示させて、その適否は開示情報を読んだ株主・投資者の判断に委ねるという形で市場規律を働かせるという考え方は、決して目新しいものではない。これまでにも様々な開示ルールが整備されてきている。例えば、有価証券報告書における、いわゆる政策保有株式の「保有目的」の開示や「役員報酬等の決定方針」開示、あるいは取引所規則に基づく「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」における「現状のコーポレート・ガバナンス体制を選択している理由」開示などが挙げられるだろう。しかし、現在のところ、これらの「開示」による規律付けが有効に機能しているとは、筆者には、必ずしも思われない。もちろん、制度の趣旨を踏まえて、丁寧な開示を行っている上場会社も存在している。しかし、そうした会社は、筆者の知る限り、かなり少数派である。むしろ、あまりにも簡略かつ曖昧な表現でお茶を濁しているかのような開示内容の会社の方が、よほど目につく。

もっとも、この件については、上場会社側の言い分にも耳を傾けなければフェアではないだろう。実際、筆者の耳にも、次のような上場会社の担当者の声が入ってきている。

「一生懸命に説明・開示したところで、それを真面目に読んでくれる株主・投資者が、一体、どれだけいるのか?」
「何を書いたところで、結局、(社外取締役の人数などの)数値基準でしか物事を判断してくれない。」

「開示」による規律付けを働かせようとしても、情報を開示する者(上場会社)と情報を利用する者(株主・投資者)の間に、基礎となるコンセンサス(例えば、「相当の理由がない限り、社外取締役を設置すべき」など)が存在しなければ、結局、両者の間のコミュニケーションが成り立たず、「すれ違い」に終始する危険性が高い。その意味では、「開示」による規律付けを有効に機能させるためには、上場会社と株主・投資者の双方が、基礎となるコンセンサスを形成し、それを尊重することに、高い意識をもって取り組まなければならないといえるだろう。

(※1)“Noblesse oblige.” 社会的地位の高い者は、それにふさわしい振舞いをしなければならないということ。

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