財政赤字と世代間不公平を論じる視点

2012年12月13日

社会保障の改革、財政健全化の議論において、世代間の公平という問題はよく俎上に載ってくる。しかし、よく聞かれるのが現在引退していく高齢世代が財政赤字の累積などのツケを後世代に残してしまおうとしているのではないかという、言い方である。しかし、財政赤字は誰に借りたのかといえば、日本の場合はギリシャなどとは違い、世界最大の対外純資産国なので国内資金で十分に賄え、今のところは間接的なものを含め国民自身が貸しているという姿になっている。しかも、一般政府のバランスシートをみれば、負債が資産を上回る純債務状態に転落したとはいえ、負債の反対側には資産(その中身は精査する必要があるだろうが)もあることは忘れてはいけない。純債務額は49兆円(2009年末、国民経済計算)で国民ひとりあたり40万円強なので、いま健全化に歩み出せばまだ間に合う。

こうしてみると、政府債務問題を外から借金しているツケを子孫に残してしまうというイメージで語るのはあまり正しいとはいえない。最終的には国民が支払わなければならない「公的」(つまり集団的連帯責任)な負債を国民の貯蓄に対して負っているということであり、国民の間で、貸借関係をどのように清算していくのか、という問題なのである。「いつ」清算しなければいけないかということについての制度的な拘束はないが、マクロ経済の安定性を損なうような負債の発散的増大は許されないだろう。少なくとも返済可能性が示されていることで負債がコントロールされ持続可能な姿となっていることが必要だ。

さて、この「国民の間で」ということを、世代間という問題で捉えなおしてみよう。高齢世代が保有している資産は、世代が交代していくと、私的に相続される部分、相続税や相続人がなく国に帰属する部分に分かれる。後者は財政歳入として政府債務の削減になるし、前者は国民の資産保有として受け継がれる。頭の体操として、仮に相続税が100%だとしてみよう。すると、家計の純資産2,039兆円(2009年末、国民経済計算確報)の2分の1が世代交代に入ると現在の政府債務は消滅することになる。ただし、これでは財産形成しても自らの子孫や自ら選んだ継承者に財産をまったく残せないということになってしまい、経済におけるインセンティブが大きく損なわれてしまう。しかし、世代間の不公平の問題という側面でみると、世代交代するときに自分たちの世代が作った「連帯債務」をある程度返済してもらうことは合理的かもしれない。相続税をそのための手段に位置づけることは適切な世代間不公平緩和策のひとつとなるかもしれない。

実は、相続税は累進課税強化(高額所得者への課税強化)よりも経済格差拡大の緩和につながる方法といえるのではないだろうか。相続する財産がない人は本人の才能で高額所得を得ても、高い所得税で可処分所得が減ると貯蓄は十分にできず資産形成はできない。そうすると相続で高額の財産を承継する人々との格差は縮小せず、財産所得の差も縮小しない。つまり財産を持つか持たないかで社会階層が固定化されることになる。

これでは個人の経済活動へのインセンティブが大きく殺がれてしまう。むしろ高額所得者は所得税を多く払うよりはそれぞれ財産形成して、最終的に相続税を納めてもらう方が、活力のある経済を作れるのではないか。相続税との比較考量で高額所得者は消費を活発化することになるかもしれない。これは景気にプラスとなるはずだ。

ただし、さらに考慮しておかなければならないのは、どのような相続税の構造にしたら経済活力を殺がない、あるいは刺激することができるかという点である。むやみやたらに相続財産すべてに重い課税を行えば資産市場への悪影響がでてくる。株式などのリスク資産の長期保有に対しては一定の掛け目をかけるなど不動産保有以上の配慮が必要だろう。一方、一般の預貯金はマイナンバー制度も活用して確実に相続財産として把握できるようにすることが必要だ。対象資産の特性にあった算定方法を選択しつつ、そのうえで広く薄く負担する部分と累進的な負担部分を適切に組み合わせるべきだと思われる。

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