スキルある子育て中の主婦を中小企業の戦力に。

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2012年11月08日

  • 河口 真理子

今年の春、筆者がかかわっているNPO法人で事務局スタッフを募集した。弱小NPOなので、給料はそれで生計をたてるのはかろうじて可能というレベルしか出せない。しかし弱小NPOとはいえ、大企業の会員とのやり取りや結構海外からの問い合わせなども少なくなく、英語力や折衝能力も必要な仕事である。果たしてこのような条件でどのような応募があるのか?そもそも応募がないのでは、と危惧したのだが、嬉しいことに早速二人応募があった。いずれも大企業で5年以上のキャリアがあるが、出産子育てのため現在は専業主婦で、給料も欲しいけれどそれ以上に社会とのかかわりを持ちたいと考える意欲的な女性であった。


結局採用させていただいたのは、大学時代に海外留学経験があって、5年ほど日本を代表する大企業で海外営業企画に携わっていた女性で当然英語力もばっちり。それまでの事務局スタッフの方もきちんと事務処理をこなし問題はなかったが、やはり込み入った交渉事や英語での手紙などになると、仕事をもってボランティアでかかわっている運営委員がサポートしなければならず、フルタイムで働いてもらってちょうどよかった。


しかし今回雇用条件を決める際こちらの腹積もりとしては、前任者と同じ条件で働いてもらわなくても大丈夫だろうし、もしそんな方に来ていただけるなら、週3回でも2回でも、あるいはお子さんが小さいなら短時間勤務で10時から4時でも構わない!という気持ちであった。結局週3回の勤務となったが、子どもの保育園などの行事と重なるときは業務日を振り替えたり、時間も変更するなど、かなりフレキシブルな条件にした。で実際に働いてもらうと、仕事は速く、我々が見過ごしていたような改善案を提案してくれ、英語の手紙もネイティブ並みで、全部お任せしても大丈夫なことがわかった。勤務が週3回でも業務は極めてスムーズで、運営委員たちの活動も活発化した。


会社を経営する人たちに彼女の話をすると「そんな人ウチに欲しかった!」と言われる。確かに、待遇面で大企業に劣る中小企業で良い人に来てもらうのは至難の業のようだ。一方で、今回の応募で感じたことだが大企業である程度キャリアを積んだが、出産子育て、夫の転勤などの事情で専業主婦中だが働きたい、という女性は少なくないのではないか? 子育て中の女性が働くためには、保育園に預けることがまず必須となる。しかし通常人気のある公立保育園に預けるには、すでに『働いていること』が条件となるケースが多い。働きたいから預けたい、しかし預けるところがないから働けないという悪循環に陥っているケースが多いという。だから、最近では働き続けるためには育児休業制度などを活用し元の企業に復帰する女性が増えている。一方で子どもが小さいうちは子育てに専念して、子どもが大きくなってから再就職を希望する女性も少なくない。しかし、一旦退職すると、過去に素晴らしいキャリアがあっても子育て女性の再就職のハードルは極めて高い。内閣府の『平成23年度男女共同参画白書』によると子育てなど家庭との両立ができずにいる30代~40代の女性の就労希望者は342万人と推計されている。


そこで思いついたのが、人材難に苦しむ中小企業と、働き場所が見つからないキャリアある子育て女性のマッチングである。中小企業が短時間フレキシブルな雇用形態の正社員制度を導入し、専門性とキャリアある子育て女性に正規雇用としての働く場を提供する。キャリアをあきらめたのは子育てが理由で、本人の能力的な問題ではない。また大企業ではビジネスマナーやコンプライアンス教育もしっかりしているので、その点でも安心感がある。また、生産性も高い人が多いと推測されるので、短時間でも成果は期待できる。一方で子育て中の女性は、短時間勤務や休日がとりやすい、オフィスが近くて通勤が楽など柔軟な勤務形態でなければ安心して働けない。中小企業でもNPOでも条件に合う場が提供されれば、働きたい女性は少なくないはずだ。


しかし、いくつかハードルも予想される。中小企業における雇用条件をどう設定するか。優秀とはいえ一部の女性だけが雇用面で優遇されているとなると、職場の軋轢も生みやすくなろう。また、中小企業には負担の大きい社会保障費負担の雇用制度の整備も必要だ。そのためには、国や公的な仕組みとして、社会保障費の在り方や雇用条件などを含めた「子育て&地域経済支援雇用制度」を整備していくこと、地域金融機関や地域のハローワークなどが働きたい女性と企業とのマッチングの場を作ること、また経営者や職場の同僚がそうしたキャリア女性の就労を応援したくなるような啓発活動が必要だろう。


こうした努力により社会インフラとして子育て中の女性と中小企業のマッチング市場が整備されれば、中小企業の活性化支援、地域経済振興、少子化対策、女性のキャリア支援などにつながると期待される。中小企業にとっては即戦力となるだろうし、若い女性に対しては子育てのためにキャリアをあきらめる必要がないというメッセージになる。大企業に働く女性も子育てで退職したらキャリアは終わりと思えば、キャリアアップのインセンティブも生まれないが、退職後もキャリアで働ける職場があれば、安心してキャリアアップにも励める。また少子化や過疎化に悩む地方において、子育て女性に働きやすい雇用の場が確保されれば、これから子育てをする若い世代の定着を促す効果が期待されるし、若い世代が増えていけば地域社会と経済の活性化にもつながるのではないか。

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