エシカル・ウェディングのススメ-人生最良の日を世界とシェアする素敵な方法

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2012年08月24日

  • 河口 真理子
3.11の大震災と福島原発事故からはや1年半弱たち被災地以外の経済や社会生活は通常モードに戻りつつあるように見えるが、震災前とは大きく変わった点が二つある。一つは「エコマインド」。それまで、エコ製品や省エネなどは、環境問題に関心のある一部の人たち向けのニッチビジネスだったが、昨年夏の大規模節電、固定価格買取制度など再生可能エネルギー促進によって、省エネ製品や自然エネルギーなどはビジネスとしても市民生活においても『当たり前』になった。もう一つは人々の価値観である。たとえば震災半年後に行われた意識調査(※1) では、今後の社会生活において重要と考えることの上位3つは「他人を思いやる心」「他人との助け合い」という社会との共生を目指すものと「環境への配慮」であり、経済成長や雇用創出を上回った、という結果が報告されている。


この「環境」と「社会との共生」を合わせた価値観の広がりが、今新しいライフスタイル「エシカル」を後押ししている。エシカルとは英語のethical(倫理的、道徳的)をカタカナに置き換えた言葉だ。日本でエシカル消費の実態調査を行っている(株)デルフィスでは、エシカルを「人・社会や地球のことを考えた『倫理的に正しい』消費行動やライフスタイルを指します。エコだけでなくフェアトレードや社会貢献も含んだ考え方(※2) 」と定義している。英国では、1989年に消費面から地球環境や途上国支援など「倫理的に正しい消費」を広める専門誌の『エシカルコンシューマー』が創刊され、1998年にはエシカル・トレーディング・イニシアチブというエシカルビジネスの協会も発足した。パリでは2004年からエシカルファッションショーが開催されるようになり、2011年に発行された『スペンド・シフト』では米国の消費動向の変化について「世界最大の消費経済を築いた需要は、今ではより多くではなく、『よりよく』を望んでいる」(※3)ことを指摘している。


今までエコ製品というと、環境のために値段やデザインは犠牲にするのもの、と思われてきた。しかしエシカルの場合、ファッションショーと結び付いたように、倫理性とデザイン性やファンション性を同時に実現した製品が多い。エシカル商品としては、環境に配慮した素材—たとえば間伐材・オーガニックコットン・有機食材などーを使った家具・衣料・雑貨・加工食品や、フェアトレードのバッグ・雑貨・衣料、鉱山の採掘現場での児童労働や環境汚染に配慮した貴金属を使ったエシカルジュエリーなどがある。これらのエシカル商品の生産者は、エコや社会貢献だけでは話題になっても実際の購入には結びつかないことを強く認識しており、製品の基本機能やデザインへのこだわりが大きい。店頭でオシャレと思って手に取ったら、その背後には想像しなかったエコや人権への配慮の素敵なストーリーがあった、というお得感が最近のエシカル商品の特徴でもある。


ただし、これらエシカル商品を手掛けるのは、起業間もない小さな社会的企業が多く、生産量自体がまだ小さく販売チャネルも限られている。フェアトレードのチョコレートやコーヒーはイオングループなど大手小売りでも扱っているが、店頭でみると数ある品揃えの中で1~2品目だけということがほとんどだ。そこで、エシカル消費の考え方と、実際にエシカル商品をフルラインで提案できる場として、またエシカルの理念である人と人の絆や地球や社会への思いやりを発現する場としてエシカル・ウェディングを勧めたい。


考えてみると結婚式・披露宴で使うモノはエシカルになじむアイテムが多い。結婚式に欠かせないウェディングリング、ウェディングドレス、ブーケ、キャンドル、お料理、引き出物 etc…


そう考えると想像力が膨らむ。たとえば、児童労働・強制労働が排除された鉱山から採掘されたかリサイクルされた貴金属や貴石を使ったエシカルウェディングリング。ドレスは、オーガニックやトウモロコシを原料にしたポリ乳酸などのエコ素材を天然草木染で染めたエコドレス。石油原料のパラフィンではなくミツバチの巣の蜜蝋を使ったオーガニックなキャンドル。ブーケには野の花やフェアトレードの花。お料理や引き出物には、オーガニックやフェアトレードの食品やオシャレな雑貨。復興支援の観点からも被災地のお酒や魚介類、野菜やフルーツなどを使うことも考えられる。


この9月の大安吉日、新郎新婦のエシカルな想いを載せた結婚式が都内で行われる。筆者も協力してエシカル商品を手配中だが、生産者からは「大変ステキな大事な場で自社製品を使っていただき感謝している。心をこめて作りたい。」という反応が返ってくる。たとえば、引き出物に予定しているブルキナファソ産の高級シアバター石鹸は、シアバターの木の管理、実の採取から石鹸製造にいたるまで現地の生産組合の女性1000人以上が関わっている。シアバター石鹸が日本で売れれば、彼女たちに貴重な現金収入がもたらされ、現地の森林保全にもつながる。1千人のブルキナファソ女性の感謝の思いがこもったアイテムは参列者にとっては、より印象深いプレゼントになるはずだ。


新郎新婦にとって結婚式とは、二人の人生にかわった大切な人たちに感謝し、彼らから祝福を受ける人生で最も輝くセレモニーである。その場をエシカルな配慮で包み込めば、参列者だけでなく参列したモノ(料理やドレスなど)作りにかかわった遠い異国の生産者や、地球環境ともがることができる、最高の時間と空間を作りだすことができるのではないか。


(※1)(株)シタシオンジャパン2011.10.26「調査結果リリース 震災から半年後の全国1万人調査で判明!!」
(※2)(株)デルフィス「第2回エシカル実態調査」
(※3)ジョン・ガースマ、マイケル・アントニオ共著、有賀裕子訳『スペンド・シフト』プレジデント社 p38

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