消費税5%分の負担は、今後10年間の経済成長で取り戻せる

2012年7月2日

消費税率を2014年4月に8%、2015年10月に10%に引き上げる法案が、衆議院を通過した。消費税増税による財政再建が現実に近づきつつある。

今後、家計の負担増として予定されているものは、消費税率の引き上げだけではない。2013 年1月からは復興特別所得税の課税が始まり、さらに、給与所得控除の上限設定が予定されている。すでに法定されている厚生年金の保険料率引き上げのほか、財政状況に応じて毎年度見直される健康保険料も高齢者医療費の増加により引き上げが予想される。

ただし、家計の生活水準を変化させる要因は制度改正だけではない。ここでは、家計の生活水準を表す指標として、「実質可処分所得」というものを考えてみる。実質可処分所得とは、給与収入または年金収入から所得税・住民税・社会保険料を控除した可処分所得をCPI(2011 年を基準年とした)で割り引いて実質化したものである。すなわち、実質可処分所得は、各年の可処分所得が2011 年現在の物価水準で考えて、どの程度購買力を持っているかを示したものであり、この水準の増減が生活水準の変動と言える。

大和総研経済調査部経済社会研究班「日本経済中期予測(2012年1月)」(以下、「日本経済中期予測」)(※1)では、これらの制度改正がありながらも、日本経済は中期的な経済成長を実現し、2012 年度から2021 年度までの10 年間のGDP成長率を実質年1.8%、名目年2.4%と予測している。経済成長によって賃金が増えることも予想される。

拙稿「日本家計中期予測」(※2)では、「日本経済中期予測」で予測されたマクロ経済の成長が実現した場合を標準シナリオとして、今後10 年間の経済成長による賃金増と、制度改正による税・社会保障の負担増を踏まえ、代表的なモデル世帯の実質可処分所得がどのように変化するのか試算を行った。

ここでは、「単身世帯」と「片働き4人世帯」(夫婦のうちいずれかが働き、小学生の子どもが2人いる4人世帯)の試算結果を紹介する。

「単身世帯」では、今後の制度改正による負担増により、消費税率が10%となった後の2016年時点では、2011年時点より1.7~3.0%実質可処分所得は減少する。しかし、経済成長による所得の増加もあるため、2021 年時点では2011 年時点と同程度の実質可処分所得に戻る見込みである(▲1.2%~+1.8%)。

一方、「片働き4人世帯」では、2021年時点で見ても、2011年時点と比べ2.5~4.1%少ない水準に留まる見込みである。「片働き4人世帯」が「単身世帯」より実質可処分所得が戻りにくい理由は、子ども手当の反動の影響を受けるためである。

子ども手当は、先に給付を増加させて(子ども1人あたり原則月0.5万円→同月1.3万円)、後から年少扶養控除の廃止や給付額の減少(同月1.3万円→同原則月1万円)の効果が表れる形となった。2012年は、これらの子ども手当の反動の影響が大きく出る。そしてその落ち込みの後、2014年から消費税増税という順番となる。

子ども手当関連の改正の影響を受けない単身世帯では、消費税5%分の負担増があっても、今後10年間の経済成長でその分を取り戻す見通しが立つ。一方で、子ども手当の反動の影響を受ける「片働き4人世帯」では、2021年になっても、2011年時点の実質可処分所得に戻らない見込みである。

恒久的な財源を確保できないまま、子ども手当の支給を見切り発車させたことの代償は大きいものと言えるだろう。


「日本家計中期予測」の標準シナリオにおける実質可処分所得の試算結果 
「日本家計中期予測」の標準シナリオにおける実質可処分所得の試算結果
(注)2011年のCPI水準をもとに実質化した金額である
   詳細な条件等は拙稿「日本家計中期予測」を参照
(出所)大和総研試算


(※1)経済調査部 経済社会研究班(鈴木準、溝端幹雄、神田慶司)「日本経済中期予測(2012年1月)」(2012年1月23日発表)
(※2)拙稿「日本家計中期予測」(『大和総研調査季報』2012年春季号掲載)


【参考レポート】
拙稿「新旧児童手当、子ども手当と税制改正のQ&A」(2012年5月14日発表)
…子ども手当・児童手当関連の制度改正のみの家計への影響試算および解説

拙稿「社会保障・税一体改革による家計への影響試算」(2012年6月22日発表)
…制度改正のみの家計への影響試算(「日本家計中期予測」とは異なり、経済成長による賃金や物価の影響を考慮していない)

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