ユーロ圏の経済政策は軌道修正されるか

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2012年05月16日

5月6日のフランス大統領選挙とギリシャ総選挙の結果に共通するのは、どちらもこれまでの政権に対する強い批判と不満が表明されたことである。フランスでは現職のサルコジ大統領が決選投票で敗れ、ギリシャでは連立与党が過半数の議席獲得に失敗した。

もっとも政権交代は2011年以降の欧州では日常茶飯事で、総選挙を経た政権交代のみならず、選挙を経ない政権交代も11月にギリシャとイタリアで実現した。財政健全化を目的に実施されてきた増税、社会保障給付の削減、公務員給与の削減などは、当然ながら国民に痛みを強いる政策で、政府に対する批判票を増やすものである。ただ、政権交代のあと財政緊縮政策が変更されたかというと、これまでの選挙では政権は代わっても緊縮財政路線は継続されるか、むしろ強化されてきた。財政健全化がユーロ圏で合意された危機対応策であることに加え、緊縮財政を緩めれば国債利回り上昇や、国債の格下げリスクを高めることがその理由である。

とはいえ、財政健全化を最優先とするユーロ圏の政策方針がここにきて変化する兆しがみられる。財政健全化路線を放棄するわけでも、緩和するわけでもないが、そこに「経済成長も重視」という路線を加えようとする動きである。景気対策の必要性はすでに昨年のうちから指摘されていたが、この4月末から5月にかけて「大物」からの発言が相次いだ。まずはECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁が4月25日の欧州議会での証言で「成長協定」を提案。欧州委員会で経済分野を担当するレーン委員は5月5日にEU域内の成長を生み出す目的で「投資協定」を策定するべきと提案した。また5月7日にはIMF(国際通貨基金)のラガルド専務理事が、「先進国は財政健全化と、成長と雇用創出を目的とした経済改革を組み合わせて実施するべき」とのスピーチを行った。

このような発言が相次いだのは二つの背景があると考えられる。一つはフランスで「経済成長を目的とした政策を」と主張するオランド氏が大統領となることが確実と予想されたことである。ドラギ総裁の議会証言は大統領選挙前のものだが、フランスで緊縮財政を推進してきたサルコジ大統領が敗れる可能性が高まるなか、「経済成長も重要」というオランド氏と正面から対立するのではなく、その主張を一部取り入れるための準備が始まっていたのではないだろうか。フランスはドイツとともに欧州統合推進に重要な役割を果たしてきた国であり、その政権交代のインパクトは他国よりも大きい。ただ、もう一つ、より重要な背景は、ユーロ圏の景気が改めて悪化傾向を強めていることにあると考えられる。厳しい財政収支赤字削減策を遂行している国々はもとより、ユーロ圏全体としてみても、2011年末以降、前期比マイナス成長へと落ち込んでしまっている。

5月23日にEU首脳会議を開催することが決まり、テーマはずばり「経済成長」となった。成長と雇用を目的に対策を講じるとの軌道修正が始まったと見受けられるが、その具体策をまとめるには時間が足りないと予想される。今回はさまざまな提案を検討したうえで、もともと予定に組まれていた6月28、29日にEU首脳会議での合意をめざすのではないかと考えられる。

ギリシャの総選挙では財政緊縮政策反対派が台頭してしまったが、緊縮財政一辺倒に対する不満は他国でも広がっており、特にそれは景気が先行き改善していくとの見通しを持てないところに大きな原因がある。「財政緊縮だけではなく、経済成長も」との方針転換で、その改善見通しにヒントを与えることができるか、欧州の経済政策は今後2ヶ月で重要な岐路にたっているとみている。

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山崎 加津子
執筆者紹介

金融調査部

金融調査部長 山崎 加津子