若者層の車離れに思うこと

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2012年05月09日

  • 松原 寛
学生時代に車に興味を持ち始め、現在に至るまでの二十数年、毎月欠かさず車雑誌を講読しているが、ここ数年、「車に興味を持つ若者が減少」、「若者の車離れが加速」といった内容をよく目にするようになった。私が学生時代に免許を取得したころは、雑誌等でこのような内容を見かけることはなかった。


車に興味を示す若者が減少したと思われる要因は様々な事象が考えられるが、主なものは以下の2つのように思える。
(1) 若者層のライフスタイルの変化
(2)自動車メーカーの開発姿勢


(1)については、雇用不安や所得の減少があげられる。最近は長引く景気低迷の影響もあり、新卒の就職が厳しい状況にある。また、就職できたとしても現状の厳しい経済状況の中では、所得の増加も期待できず、将来への不安を抱いている若者層は多い。このようなことから、現代の若者層の間で節約志向が強まっており、車を所有しない若者層が増加しているのだろう。車を所有する場合、購入時の出費だけでは済まず維持費も必要だ。維持費には、車検、自動車税、自賠責保険、任意保険、燃料代、駐車場代等があるが、いずれも年間で数万~数十万円かかるものである。リーマンショック以降はガソリン代も高騰した。会社の同僚で、最近車を手放した者がいる。その同僚から聞いた話では、車を手放したことにより年間40~50万円程の出費が減少したそうだ。地理的要因、車の使用頻度により維持費も変わってくるが、収入が多いとはいえない若者層にとって車を所有するため年間にこれだけの費用を負担するのは厳しいと思える。

インターネットや携帯電話の普及も若者層のライフスタイルに影響を与えている。以前は、旅行、レジャー、ドライブ等が余暇の過ごし方として代表されるものであったが、近年は、携帯電話のメールやゲーム等に余暇の時間を費やす若者が多いという。特に携帯電話は若者層の間で保有率は高い。携帯電話は車に比べ出費は少なくて済み、容易に情報収集や友人と連絡を取れるなどコミュニケーションツールとしての利便性が高い。近年のこのような趣味の多様化が、車へ興味の目を向ける若者層を減少させたのかもしれない。


こうした需要サイドの構造変化は(2)の自動車メーカーの開発姿勢にも影響を及ぼす。ここ数年、日本車メーカーの開発コスト削減等により、以前に比べ車種が減少している。日本車に限っていえば、特にセダン、スポーツカー、スペシャリティーカーといった車種の減少は著しい。これとは対照的に、ミニバン、エコカー(軽自動車、コンパクトカー、ハイブリッドカー)といった車種は増加している。バブル崩壊以降、国内の自動車販売台数が落ち込み、各自動車メーカーも販売台数の見込める車種へ力を注ぐようになった。近年の売れる車の代表例が、実用性、経済性、環境問題等を重視したミニバン、エコカーである。本来なら車好きで購買意欲の旺盛なマニア的ユーザーから運転する楽しみを奪い、車離れを加速させているように思える。二十数年前は、車種が豊富で個性ある車が揃っていた。また、若者層でも価格的に手が届くところで魅力ある車が多くあったように思う。しかし、近年はほとんどそのような車種は無くなってしまったように感じる。

先日、自動車メーカーのT社とF社で共同開発した新しいスポーツカーが発売された。1980年代にT社が発売した車種の復活ということで話題になっていたもので、徹底的に運動性能に拘った低重心FRパッケージの車だ。車に興味を持つ者なら心をくすぐられるような車であろう。私が購読している車雑誌の情報によると、3月5日時点でのT社における受注状況は約7,000台(月間目標販売台数1,000台)で、年代別でみると20代が約23%を占めているという。一部の車好きの若者が予約したものと思われるが、私が予想していた以上に20代の割合が多かった。各自動車メーカーからこのような話題性や魅力ある車が次々に発売されるようになれば、車に興味を持つ若者も増えてくるかもしれない。


右肩上がりの高度成長期には収入も増え、将来の夢や希望を多く望めたのかもしれない。しかし、バブル崩壊後の低成長期に育ち、将来の生活に漠然と不安を抱き、節約志向が強い現代の若者層にとって、車は浪費の対象と感じられるのだろう。このまま節約志向が習慣化した世代が長期にわたるようになれば、国内の消費市場はますます縮小していくことになる。日本の産業構造に自動車の占める比率は大きく、自動車不振が日本の経済に与える影響は大きい。車離れに歯止めをかけるためにも多様化する若者層のニーズに適合するような新車開発の方向性を再考することが重要といえる。

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