2012年株主総会の争点

2012年4月5日

米国、欧州等で進行しているガバナンス改革の中心的な課題の一つは、経営者報酬をどのように適正化していくかということだ。サブプライム危機の一因は、経営者報酬の体系が過度のリスクテイクを動機付けたとも言われている。そのため、経営業績と報酬を関連付けることも目的として経営者報酬の決定プロセスに株主を関わらせるSAY ON PAYが各国で相次いで導入された。これは、株主総会に経営者報酬に関する議案を付議し、株主の賛否を問うものである。従来は、多くの国々で経営者報酬が株主の関与なしに決定されてきたが、それがここ数年で様変わりしており、機関投資家がこの問題に関心を持つ契機となっている。わが国の上場企業に投資をする海外の機関投資家であれば、日本の経営者報酬にも関心を持つと考えなければならず、外国人株主が多い企業の場合には、報酬に関連する議案に対して多くの反対票が出る可能性がある。米国でSAY ON PAYが始まった2011年には、わが国企業の株主総会で退職慰労金議案へ多くの反対票が投じられた。これは、経営者報酬の詳細が開示される欧米の状況に比較して、日本では経営者報酬の大きな部分を占める退職慰労金の詳細がほとんど不明という現状への警戒感からでた反対票だ。退職慰労金を含めた経営者報酬に関しては、その決定プロセスや透明性について一層厳しい判断が下されるものと予想される。ここでは、機関投資家向けに議決権行使の助言を行うコンサルティング会社の日本株に関する助言方針の変更点を見てみる。

グラスルイス(※1)では、報酬委員会の委員長をCEOが兼務している場合には、CEOの取締役選任議案に反対を推奨する。これは、自分の報酬を自分で決めるようなものだからだ。また、CEOが報酬委員会のメンバーである場合には、委員会の委員長は社外取締役であるべきともしている。CEOが報酬決定へ強い影響力を持つべきではないという判断に基づくものと思われる。また、退職慰労金贈呈議案で贈呈対象者が社外役員のものや、金額が明示されていないものには、引き続き反対するということである。金額が明示された場合には、ケース・バイ・ケースで判断するという。退職慰労金は、勤続年数を乗じて算出する例が多いが、これは業績連動型を好む海外の投資家からの評判は極めて悪い。したがって、金額が明示されたとしても、算定方法によっては反対投票が推奨されることもあり得よう。

業界最大手のISS(Institutional Shareholder Services)は、2011年11月17日に新たな判断基準(※2)を公表しており、ここでも報酬関連での見直しがあった。役員報酬の上限改定議案について賛成できる場合の要件に、その理由が合理的に十分に説明されていること、というものが付加された。すなわち、上限引き上げの説明が不十分であれば反対投票を推奨することとなる。また、ストックオプションについて賛成するための要件を一部緩和する。役員報酬の上限改定については、その必要性が具体的に説明されるか、または業績連動型報酬の導入や増額を理由とするのであれば、賛成と判断する。行使価格が1円のいわゆる報酬型ストックオプションについては、従来、具体的な行使条件が明示されないものには反対を推奨してきたが、付与から3年間未満は行使が禁止されている場合、あるいは退職前の行使が禁止されている場合は、業績条件がなくとも例外的に反対を推奨しないと改められた。これは、たとえオプション行使価格が1円であっても、株主と利害を一致させる効果はあるのだから、業績連動型報酬と考えられるとの判断によるものと思われる。株主の関心事である株価とオプション価値は連動するので、過大なものでない限りは、肯定的に考えるべきとの考慮があるのだろう。

現在の欧米で進められている制度改正の方向は、企業ガバナンスを実のあるものとするため株主による経営監視機能を高めるところにある。人は、インセンティブに反応するのだから経営監視機能の中心に報酬の問題が置かれることになる。

議決権行使助言会社の助言基準改定を見ると、経営者報酬の透明性確保と業績連動と世界的な潮流がわが国の株主総会議案の賛否推奨にも影響を及ぼしていることが明白だ。株主総会シーズンが近づいているが、海外の株主が多い企業の場合、経営者報酬について情報開示が不十分であれば、厳しい投票を受けることになると考える必要があろう。

(※1)「Proxy Season Preview 2012」Glass, Lewis & Co., LLC
(※2)「International Corporate Governance Policy 2012 Updates

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