第三者割当規制と会社法改正

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2012年03月14日

法務省法制審議会会社法制部会は、昨年12月に公表した「会社法制の見直しに関する中間試案」(以下、「中間試案」)に対して寄せられた各方面からの意見を踏まえて、先月(2月)22日から会社法改正に向けた議論を再開した。今回の会社法改正の論点は、社外取締役の選任義務化、多重代表訴訟など多岐にわたっているが、本コラムでは、第三者割当規制を取り上げたい。近年、わが国において、特に上場会社の第三者割当規制を巡って論じられるのは、大きく次の二点が指摘できるだろう。

(1)有利発行に該当しなければ、取締役会の決議のみで、第三者割当を通じて新たな支配株主を出現させてしまう。
(2)有利発行に該当しなければ、取締役会の決議のみで、既存株主の持分を大規模に希釈化するような第三者割当が実施できてしまう。

「中間試案」が取り上げているのは、主として(1)の論点である。具体的には、公開会社(譲渡制限のない株式を発行している会社)が実施する支配株主の異動を伴うような第三者割当について、次のような提案(3論併記)を行っていた。

【A案】
◇原則、株主総会(普通決議)が必要。
◇ただし、定款により「取締役会が当該募集株式の発行等による資金調達の必要性、緊急性等を勘案して特に必要と認めるとき」は、株主総会を省略できると定めることが可能。
◇もっとも、定款の定めがあっても、議決権3%以上の株主が異議を述べれば、株主総会の省略は不可。

【B案】
◇原則、取締役会決議で実施可能。
◇ただし、議決権1/4超の株主が「反対する旨」を通知すれば、株主総会(普通決議)が必要。

【C案】
◇現行法のまま(取締役会決議で実施可能)

この提案に対して取引所や海外投資家などが【A案】を支持する一方、経済団体などは【C案】を支持する意見を表明しているようである。ただ、【A案】は、定款の定めさえ設ければ、容易に規律を免れることになってしまうという難点が指摘されている。そのほか、例えば、真に緊急性を要する場合であっても3%以上の株主が異議を述べると株主総会の開催が必要となってしまう、差止訴訟が提起されれば「緊急事態」の中で「緊急性」の有無を裁判所で争わなければならなくなる(司法判断しなければならなくなる)、との懸念も表明されている。だからといって実質ゼロ回答の【C案】では、現状の問題に何の対処もなされないとの批判を免れることができない。特に、海外投資家のわが国資本市場に対する信頼を損なう懸念もあるだろう。いずれにせよ非常に難しい問題である。

他方、前記(2)の問題は、国内外の投資者から批判の強い点ではあり、例えば、株主総会による承認を義務付けるべきだとの議論も聞かれる。しかし、「中間試案」の提案は、あくまでも支配株主の異動に着目したものであって、(2)の問題は直接取り上げてはいない。

筆者は、(2)の問題について、そもそも株主・投資者が、いわゆる授権枠を適切にコントロールすれば、現行法の下でも解決可能だと考えている。確かに、わが国の会社法は、発行済株式総数の4倍まで授権枠(発行可能株式総数)を設定できるものと定めており(会社法113条3項)、これが大規模な希釈化を伴う第三者割当を許しているとの指摘がある。しかし、授権枠の拡大には定款の変更が必要であり、そのためには株主総会の特別決議による承認が必要である。つまり、今の授権枠を使い切ってしまえば、株主総会に定款変更議案を提出し、授権枠の拡大について特別決議による承認を得ない限り、それ以上、株式は発行できないのである。この段階で、株主・投資者が、十分に説得的な理由のない野放図な授権枠拡大を阻止していれば、そもそも(2)の問題は生じないはずだと考えられる。

現実に、野放図な授権枠拡大が阻止できていないとすれば、それは株主・投資者が適切に議決権を行使してこなかったか、あるいは、株主総会自体が株主・投資者保護の観点から適切に機能していないか、のいずれかであろうと筆者は思っている。いずれが原因であったとしても、株主総会(しかも特別決議)による規律付けが機能していないのであれば、それは最早、株主総会か、取締役会か、という手続論以前の問題だといわざるを得ない。

(1)の問題にしても、(2)の問題にしても、筆者も何らかの対応が必要だと考えている。しかし、単に会社法や取引所規則などを改正して、株主総会決議を義務付ければ解決する問題だとも思われない。仮に、株主総会が適切に機能していないという現実があるとすれば、これを義務付けたとしても「形式的に株主総会を通せば何をしてもよい」という考え方を助長することになりかねない。資本市場を利用する上場会社が服すべきファイナンスに関する規律は何か、という、より本質的な観点からの議論が必要であるように思われる。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳