経常収支赤字の一人歩きに用心

2012年3月6日

今週公表される2012年1月の国際収支統計において、経常収支が3年振りの赤字に転落するとの見方が大勢となっている。これは、同年1月の貿易収支が、(1)海外経済の減速、(2)原発の相次ぐ稼働停止に伴う代替燃料の輸入増、(3)アジアの旧正月の影響などから、過去最大の赤字額を記録したことが原因である。近年の日本の経常収支は、貿易収支が多少赤字になったとしても、潤沢な所得収支黒字でその赤字分を補える構造となっている。しかし、今回の貿易赤字額があまりにも巨額であったことから、通常の所得収支黒字の水準では経常収支黒字を維持するには不十分と考えられたのである。

現行の統計(1985年以降)になってから経常収支が赤字を記録したときを調べてみると、1990年1月、1991年1月、1996年1月、2009年1月の4回で、全て「1月」であることが確認できる。そのため、1月の経常収支が季節的に弱いという特徴を踏まえると、今週の結果が経常収支赤字だったとしても、さほど驚くような出来事ではない。他方、経常収支は、長期金利、為替レート、インフレ率との関係で論じられることが多く、今回の結果次第では、日本の財政問題へ議論が飛び火する可能性がある。具体的には、経常収支が赤字に転落すると財政問題を抱える日本の長期金利は急上昇(=国債価格が暴落)して、実体経済に大きな悪影響を及ぼすという説が指摘できる。

過去の財政危機や通貨危機などの分野の実証研究において、経常収支要因を重要な説明変数の1つとして使用している分析が数多くあるため、そうした研究成果に基づけば長期金利の急上昇は理にかなうシナリオと言えよう。さらに、足下の円安の動きが、日本銀行の金融緩和政策の強化に加えて、貿易収支の大幅赤字や経常収支の赤字転落懸念に起因すると見られていることを考えると、マーケットにおいても経常収支の動向は無視することはできなくなっている。しかし、経済という社会科学のデータを用いた分析に限れば、それらの因果関係は必ずしも明確でなく、「国」や「時期」が変われば結論も変わる。実際、大幅な経常収支の赤字を計上している国で、国債価格の暴落や急激なインフレが起こった事例がある一方、それらが起こらなかった事例も少なくない。

いずれにせよ重要なことは、経常収支赤字が単独で議論を決定付ける「最強カード」になりえないということである。日本では経常収支赤字が「レアカード」であることは間違いないが、その珍しさに目を奪われて、「最強カード」のごとく議論が一人歩きするのには用心したい。

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