フランス大統領選挙はオランド氏とサルコジ氏の一騎打ちへ

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2012年02月08日

4月22日にフランス大統領選挙が行われる。ここ1年、ユーロ圏加盟国では政権交代が相次いだ。アイルランド(2011年2月)、ポルトガル(同6月)、スペイン(同11月)は総選挙で政権交代が実現し、ギリシャとイタリア(いずれも11月)は選挙を経ずに政治家でない首相が新しい内閣を組閣した。いずれも財政悪化懸念で国債利回りが大幅上昇し、市場の信認回復のために大規模な財政赤字削減を迫られた国々である。景気回復がおぼつかないなかで打ち出された増税や公務員の給与凍結などの財政健全化策は、与党への批判票増加につながった。

フランス経済は2009年半ば以降、緩やかな回復過程にあったが、2011年10-12月期は前期比マイナス成長に転じたと推測される。フランスの10年国債利回りはイタリアやスペインほどには上昇していないが、リーマン・ショック前は0.2%以下に収まっていたドイツ国債との金利差は2011年11月に一時2%近くまで急拡大した。フランスの財政赤字は2009年にGDP比7.5%へ拡大したあと、2010年は同7.1%で、赤字削減が遅れていることが金利上昇の原因と指摘された。このため、フランス政府は2016年の収支均衡を目標とする4ヵ年の財政再建計画を昨年11月に公表した。

この情勢下で行われるフランス大統領選挙は、世論調査では野党社会党のオランド候補がリードしている。2月初めの世論調査で34%の支持を集め、サルコジ大統領の26%に8%ポイントの差をつけた。オランド氏は1月下旬に60項目のマニフェストを公表。2017年の財政収支均衡を目標に掲げ、それに必要な290億ユーロを銀行、大企業、高所得者に対する課税強化で賄う計画である。他方で教育と雇用創出支援プログラムにより多くの資金を投入し、雇用拡大を図ることを約束している。

一方、まだ出馬表明はしていないが、サルコジ大統領も1月末に今後の政策方針を発表した。中小企業向け貸出を任務とする産業投資銀行を2月に設立し、また、従業員250人以上の企業に従業員数の5%に相当するインターンの受け入れを義務付け、中小企業と若年失業者への対策を打ち出した。オランド氏と同じく増税計画も盛り込んでいる。8月に金融取引税(フランス株やデリバティブの取引額の0.1%を課税し、10億ユーロの税収を見込む)を導入し、10月には付加価値税(VAT)を19.6%から21.2%へ引き上げる計画である。これらの増税は、企業の社会保険料負担を軽減する財源に用い、生産拠点の国外流出を阻止することが目的としている。

両者ともフランスはユーロ圏の一員として財政健全化を目指すという方針に違いはないが、それをどのような方法で実現するかに違いがある。銀行、大企業、高所得者に負担増を集中させようとしているオランド氏と、国民に広く薄く負担してもらおうとしているサルコジ氏のどちらに軍配が上がるだろうか。ここ1年のユーロ圏の選挙動向からはオランド氏有利とみられるが、ミッテラン大統領以来17年ぶりに社会党の大統領が誕生した場合、懸念される点が二つある。一つはオランド氏が公約を実行した場合、フランスの競争力が低下する可能性が高いこと。もう一つはここまで独仏が主導して進めてきたユーロ圏のソブリン危機対応を見直そうとしていることである。EUとしての結束を強めるべく、財政統合を推進するというフランスの方針は変わらないと予想されるが、ユーロ共同債導入、ECBによる国債購入拡大などドイツが慎重な政策に関してフランスがより積極的になり、独仏間で不協和音が高まる可能性が考えられる。

サルコジ氏は増税を含む政策方針を発表してから支持率がむしろ上昇している。1月半ばの世論調査では支持率3位の極右政党のルペン党首に1%ポイント差に迫られていたが、2月初めの世論調査では両者の差が10%ポイントに拡大した。大統領選挙は第一回投票で過半数を得る候補がいなければ、上位2候補による決戦投票が行われる。5月16日の決選投票はオランド氏とサルコジ氏の一騎打ちになる可能性が高まってきたと考えられる。

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山崎 加津子
執筆者紹介

金融調査部

金融調査部長 山崎 加津子