拡大が期待される日本のSRI(社会的責任投資)市場

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2012年02月07日

  • 伊藤 正晴
SRI(Socially responsible investment)は、ESG(環境、社会、ガバナンス)要因を投資プロセスに加える運用で、欧米を中心にその市場規模が拡大している。しかし、欧米に比べると日本のSRI市場の規模は非常に小さい。少し古いデータであるが、2009年で欧州のSRI市場は約5兆ユーロ(※1)、米国は約3兆ドル(※2)とそれぞれ数百兆円の規模に達しているのに対し、日本のSRI市場(※3)は同時期で7,762億円しかなく、直近の2011年9月末時点でも8,032億円にとどまっている。欧米では機関投資家によるSRIが主流であるのに対し、日本ではエコファンドなど個人投資家向けの商品がほとんどを占め、これが市場規模の違いの主因と考えられる。しかし、日本においてもSRIの資金の出し手である資産保有側と、実際にその資金の運用を行う運用機関側に、SRI市場の拡大につながる動きがある。

資産の保有者側の動きとしては、2010年12月に日本労働組合総連合会が「ワーカーズキャピタル責任投資ガイドライン」を発表した。これは、労働者が拠出した、または労働者のために拠出された資産であるワーカーズキャピタルの運用に関するガイドラインであり、財務的要素に加え、ESG要因も考慮することで公正で持続可能な社会形成に貢献すること目的としている。これまで資産運用とは無縁と考えられてきた労働者自らが、その資産運用に対して意思を表明したという点で非常に大きな意味を持とう。ワーカーズキャピタルの代表が年金基金であるが、その運用には受託者責任が大きな問題となる。「ワーカーズキャピタルに関する連合の考え方」では「わが国においても法律専門家が『SRIは必ずしも受託者の義務には反しない』という意見書を出している」とし、SRIが可能であることを示した。これまでSRIに慎重であった年金がSRIを開始することの後押しが期待できよう。

次に、資産運用側の動きとしては金融機関が自主的に作成し、2011年10月に公表された「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則(21世紀金融行動原則)」(事務局:環境省)がある。この原則は前文で「持続可能な社会の形成のために必要な責任と役割を果たしたいと考える金融機関の行動指針として作成された。」とし、7つの原則が示されている。また、金融業界全体から幅広い参加(署名)を促すため、「運用・証券・投資銀行」、「保険」、「預金・貸出・リース」の業態ごとのガイドラインを設け、参照すべき諸基準、取り組み事例の主な切り口を示している。原則への署名は11月15日より開始されたが、12月14日時点で銀行、信用金庫、保険、証券などさまざまな業態の金融機関63社が署名したことが発表された。また、直近の2月2日時点では署名機関は144社(※4)となっており、着実に署名機関の数が増えている。ESGを考慮した投資への取り組みが遅れていた日本においても、この原則がSRIに向けたガイダンスとして各社の創意工夫を促し、市場が拡大する契機となることが期待される。

このように日本においても機関投資家によるSRIの拡大につながる環境が整ってきている。また、全国市町村職員共済組合連合会が先月、国内株式を対象としたESGインデックスをベンチマークとする国内株式パッシブ運用の受託機関の募集を公表(※5)するなど、SRI拡大の兆しが出始めている。年金資産によるSRI参入により日本のSRI市場が拡大するとともに、それが持続可能な社会の形成に資することが期待される。

(※1)Eurosif「European SRI Study 2010」
(※2)Social Investment Forum Foundation 「2010 Report on Socially responsible Investing Trends in the United States」
(※3)社会的責任フォーラム(SIF-Japan)
(※4)郵送による未着等は含まれていない。
(※5)平成24年1月30日、全国市町村職員共済組合連合会「国内株式パッシブ運用受託機関の募集について」

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