円高トレンド下での海外進出

2011年12月5日

歴史的な円高局面が長引いており、国内製造業に及ぼす影響が危惧されている。そうした中、逆転の発想から、円高の時こそ海外進出の好機という意見をよく耳にするようになった。確かに、円高であれば海外のモノや企業を円安の時より少ないお金(円)で買うことができる。しかし、急速な円高進行で業績が悪化した企業が増えている状況下で、「円高の時こそ海外進出」という聞こえの良いキャッチフレーズに飛び乗って本当に良いのだろうか。

日本特有の問題として確認しておきたいのは、長期的な為替の均衡水準である購買力平価において、円がほぼ全ての通貨に対して上昇トレンドを辿っているという事実である。さらに、他国より低いインフレ率が続く日本の物価構造を踏まえると、この円高トレンドは今後も継続することが見込まれる。そのため、現在の円高局面で海外のモノや企業を割安で買えたと思ったとしても、円高が進むのを辛抱強く待てば、10年後の未来の世界でもっと安く購入できる可能性がある。

実は、円高メリットを活かして海外進出をすれば良いという話には、そう遠くない将来に為替が現在の水準より円安になることを、暗黙の内に仮定しているケースが多いと思われる。例えば、足下の為替水準は国際金融市場の動揺を受けてトレンドから大きく円高方向に乖離しており、今後はトレンドに復する形で円安に振れるというようなシナリオである。しかし、これは為替の変動を利用してリターンを狙う外貨投資の発想に近く、長期的な視点に基づく企業の海外戦略よりも短い時間軸での議論と言えよう。

また、他の先進国と比較して日本の対外直接投資残高の対GDP比が小さいため、企業の海外進出を促してグローバル経済の恩恵を享受すべきという意見がある。しかし、日本の対内直接投資残高の対GDP比の方がもっと小さく、国内産業の空洞化防止や日本経済の生産性向上のために、海外企業をいかにして国内へ誘致するかという議論がこれまで幾度も行われてきたことを忘れてはなるまい。マクロの観点からは、海外企業の誘致とのバランスを無視した「国内企業の海外一方通行」は、日本の空洞化を一段と加速させるだけで終わるリスクがある。

以上からわかるように、円高と海外進出を結びつける話はそう単純なものではない。企業の海外戦略においては、円高トレンドという日本の為替構造を大前提とした上で、為替の循環的な変動に踊らされることなく、新興国を中心とする海外経済の成長の果実を着実に取りに行くという視点が重要である。

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