CDPの情報公開度スコアはESG要因として有効か?

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2011年11月16日

  • 伊藤 正晴
SRIはESG要因を投資プロセスに加えることで、運用パフォーマンスの向上や社会への貢献などを目指す投資とされている。そこで、ESG要因としてCDP(Carbon Disclosure Project)の情報公開度スコアを取り上げ、株式パフォーマンスとの関係を分析した。

このスコアは、気候変動等に関する取り組み、温室効果ガスの排出量の測定や管理等に関して企業に質問し、最大を100とするスコアリングを行ったもので、日本企業を対象とした調査結果が「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト2010 ジャパン500レポート」として公開されている。また、スコアリングの対象となった企業は情報開示に積極的な企業なので、スコアの高低に関わらず市場全体よりも株式パフォーマンスが上回ることが期待される

レポート公開の翌月である2010年11月から直近の2011年10月までを分析対象期間とし、データが取得可能であった企業のうち情報公開度スコアが50以上の企業(スコア上位、111社)と50未満の企業(スコア下位、94社)を対象として株式の月次リターンの平均値を算出した。これを配当込みTOPIXと比較すると、分析期間の12カ月でスコア上位のリターンが配当込みTOPIXを上回ったのは8回であった。また、スコア下位は9回、そしてスコア上位または下位が配当込みTOPIXを上回ったのは11回となっている。情報公開度スコアの高低に関わらず市場全体のリターンを上回った月が多い。

2011年8月はスコア上位のリターンが配当込みTOPIX等に比べて大幅なマイナスとなっている。8月は、スコア上位の2割強を占める電気機器などの株価が欧米財政問題や世界景気の減速懸念等から大幅に下落した月で、業種構成の違いの影響が大きかったようである。そこで、7月までの累積リターンの平均値を算出したところ、配当込みTOPIXが5.14%であったのに対し、スコア上位は7.69%、下位は6.28%で、スコア上位、スコア下位、配当込みTOPIXの順にリターンの大きさが並んでいる。また、直近の10月までの1年間の累積リターンでは、配当込みTOPIXが-3.54%であったのに対し、スコア上位は-3.18%、下位は-0.20%となった。スコア上位は8月の影響が大きく、スコア下位よりもリターンが低いが、いずれも配当込みTOPIXのリターンは上回っている。

これらの結果は、情報公開度スコアがESG要因として有効であることを示唆しているのではなかろうか。ただし、CDPの調査はさまざまなユニバースを対象としているが、その回答率は世界全体の企業を対象としたグローバル500が82%、欧州企業を対象としたヨーロッパ300が84%であったのに対し、日本500は41%と低い。また、2011年11月7日に公開された2011年版のレポートでも、回答率は43%にとどまっている。日本企業に関する調査は2009年より対象を500社に拡大したことの影響や、2011年は東日本大震災の影響で回答を辞退するという要因もあったようだが、CDPへのESGに関する情報開示はまだ積極的とは言えまい。情報を開示する企業が増えることが望まれるとともに、開示が進むことでESG要因としての情報公開度スコアやスコアを構成する要素の有効性が高まるのではないか。

情報公開度スコアと株式リターン(%)
(出所)CDP、東京証券取引所等より大和総研作成

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