実効性ある事業継続計画(BCP)とは

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2011年11月08日

  • 大村 岳雄
東日本大震災発生から8ヶ月が経とうとしている。今回の大震災では、サプライチェーンの寸断により製造業を中心に甚大な影響を受けた。このため多くの企業でBCPが有効だったか問われることとなった。大和総研が2011年初頭に実施したアンケート調査(※1)では、51%の企業が地震等の災害に関するBCPを策定済であると回答した。策定済とした企業を業種別でみると、エネルギー・資源・電力・ガスといったインフラ系の企業が88%と最も高く、ついで商社・卸売(78%)、不動産(75%)という順であった。一方で、電機・精密(50%)、鉄鋼・非鉄(50%)といった製造業は相対的に低かった。インフラ企業の場合、地震等の自然災害は本業への直接的影響が大きいため取組みが進んでいるかと思われる。

図表1.地震等の災害に関するBCPの策定状況(業種別)
図表1.地震等の災害に関するBCPの策定状況(業種別)
(出所)2011年1月実施のアンケート調査より大和総研作成

一口にBCPといっても、有事の際の実効性の確認は机上だけでは計測しきれない、また取引先・海外拠点を含めどのレベルまでビジネスインパクトを検討しておくべきか判断は難しく、完璧なBCPはない。10月以降、タイの洪水で日系企業の操業が困難となっているのは衆目の通りである。現行のBCPに参考となる部分はないのであろうか。

東日本大震災後となる本年4-5月に行ったヒアリング調査(※2)でいくつかのヒントを得ることが出来た。(図表2)

どの事例にも共通しているのは、従前に策定されたBCPに基づき行われた訓練や社内備蓄、耐震調査等が機能したことである。これらの事例から学べるのは、BCPを策定するだけでなく、日頃から策定されたBCPに基づき何らかの具体策に取り組んでおくことである。

図表2.BCPが有効だった企業事例
P社 シミュレーション訓練で応用が可能に 2010年に本格的なBCPのシミュレーション訓練を実施していたため、製品の備蓄などを考慮していたため、欠品リスクをある程度回避できた。
Q社 複数購買の実施で、リスク分散を実践 資材部などが通常の業務範囲の中で海外を含め複数購買を実施しており、資材の確保が可能だった。従前のBCPに基づき、備蓄在庫があり大きな問題は発生しなかった。
R社 社内イントラでサプライヤー情報を共有化 2010年にBCPに基づき建築物の耐震性を診断済であり、想定の範囲であった。社内イントラで毎日サプライヤー情報を掲載し、複数購買につき社内で情報共有が図れた。
(出所)企業ヒアリングより大和総研作成

一般的にBCPといっても対象範囲は広い。ビジネスインパクト分析や優先事業の選定、非常時の情報伝達の体制、投資家への情報開示など検討しておくべき点は多岐に亘る。

2-3年のサイクルでこれらのポイントを考慮しながら、BCPの策定と見直し、実地訓練や社内調査等を実施していくことで、企業における事業継続が強固なものとなっていこう。

(※1)「企業のリスクマネジメント最前線2011」2011年1月実施、対象:上場企業500社、回答143社(回収率28.6%)、企業経営コンサルティング部
(※2)「リスクマネジメントの喫緊の課題-海外子会社への展開とBCPの実効性確保」横溝聡史・吉田信之(企業経営コンサルティング部)、DIRコンサルティングイーグルアイ2011.7Vol.03 夏季号

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