業績予想開示のあり方

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2011年10月31日

現在、業績予想開示の見直しが検討されている。
2011年7月に、東京証券取引所は、「上場会社における業績予想開示の在り方に関する研究会報告書」(以下、報告書)を公表した。
報告書では、「上場会社が投資者の投資判断に有用な情報を開示することは、上場会社と情報利用者との重要な情報の格差の解消につながるものであり、証券市場の健全な運営上望ましく・・・」として、業績予想開示の重要性を指摘している。
ただし、現在行われている業績予想開示については、「原則的な取扱いの遵守にこだわり過ぎると、合理的とは言えない業績予想の開示が行われたり、上場会社に必要以上の負担をかけたりするおそれが高い」、「一定の前提を置いて算出した将来の業績に関する数値があったとしても、経営目標としての側面が強いものであり、投資者にとって有用なものとは言えないケースや、無理に規格化された画一的な情報を提供しかえって市場を混乱させるケースがあり得る」(下線筆者)といった点が指摘された。

報告書では、業績予想開示の望ましい方向性として、レンジ形式で予想を開示すること、決算発表時に業績予想が開示できない場合に合理的な予想が開示できる時点で開示すること、1年の予想が難しい場合に1年よりも短期の予想を開示すること、などが挙げられている。
その中でも注目されるのは、将来予測情報の開示を提案している点である。
例えば、市況に左右される業種の会社が、無理に業績予想を開示することにより、投資家をミスリードする恐れが生じると思われるため、業績予想を開示しないことはあり得る。
ただ、そのような場合に、現在のように単に業績予想を開示しない理由のみを開示するのでは、投資家にとって不十分である。
このような直接的な業績予想の数値が開示できない場合に、経営方針、その背景となる経済・市場認識、経営管理上重視している他の経営指標、設備投資計画や人員計画など、投資者が投資判断を行う際に役立つ様々な将来予測情報を開示することが有用としている点は評価できるであろう。
また、報告書では、業績予想数値を開示する際に、数値の試算の前提諸条件やその根拠、変動可能性等の説明をすることが重要であるとしているが、仮にこのような説明が行われるようになれば、投資家にとって投資判断の材料が増えることになり、アナリスト予想の精度の一層の向上が期待できるという点でも有用であると思われる。

そもそも、上場会社は業績予想を発表する必要はなく、アナリストのみが業績予想を行えばそれで足りるという意見もある。
しかし、アナリストは全ての上場会社をカバーしているわけではない。
一般の投資家が、アナリストがカバーしていない上場会社に投資する際には、当該会社が公表する業績予想が非常に重要な投資判断の材料となる。
経団連は、業績予想開示の廃止も検討すべきと提案(※1)していたが、安易に廃止すべきではないだろう。
上場会社の負担に配慮しつつも、利用者の意見が十分に反映された見直しとなることを期待したい。

(※1)日本経済団体連合会「財務報告に関わるわが国開示制度の見直しについて」(2010年7月20日)

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 鳥毛 拓馬