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2011年09月29日

足もとの冴えない米国の景気を象徴しているのが個人消費の緩慢な伸びであり、その背景として、雇用・所得環境の改善があまり進んでいないことが挙げられる。2008~09年の金融危機の際に、非農業雇用者は875万人(2008年2月~2010年2月の累計)減少したが、それから1年半経っても雇用者の増加幅は200万人に満たない。つまり、戦後の景気後退局面において最もドラスティックな人員削減が実施されたと言っても過言ではないにもかかわらず、企業は採用に慎重なままである。さらに、直近8月には雇用者が前月から全く増えず、市場予想を大きく下回ってしまった(ストライキといった一時的要因はあるものの)。

今回の抑制された雇用改善をみると、民間部門の雇用者は約240万人増えており、逆に政府部門が同じ期間に50万人以上減っている。州・地方政府に限れば、2008年9月のリーマン・ショック以降の3年間断続的に減り続けており、累計で70万人に届こうとしている。数字上、政府部門の人員削減が全体の雇用回復の勢いを減じているわけだ。日本では地方公務員の解雇という話はあまり聞かないかもしれないが、米国においても、ここまで大規模かつ長期にわたる公務員のリストラは珍しい。景気後退による大幅な税収の落ち込みが響いており、NLC(National League of Cities)の報告書によれば、2011年も不動産市場の低迷を受けて財産税等が減少すると予想されている。それ故、オバマ政権では、経済対策の一項目として州・地方政府の雇用維持を常に意識しており、9月8日にオバマ大統領が発表した景気浮揚・雇用創出策のAmerican Jobs Actでも、学校の教員のレイオフ阻止(最大28万人)、警察官や消防士の採用及び雇用維持などの費用として計350億ドルが盛り込まれている。

では、実際に街から警察官が消えてしまったのか。NYPD(New York City Police Department)の資料によると、現在約3万4500人の制服警官がいる。2000年のピークには4万人を超えていたというから確かに減っているが、足もとで急減している状況ではないようだ。むしろ、この9月は街中に警察官が溢れていた。元々警察官が多めのTimes Squareだが、9.11の10周年を前にテロ計画の情報が流れたこともあり、その前後はいつにも増して多く厳戒態勢だった。また、ある日には、通勤で利用するTimes Square-42 Street駅の一つのプラットフォームの端から端までに8人の警察官が立っていた(中には携帯をいじっている人もいたが)。そして、Wall Street駅で降りて地上に出れば、NY証券取引所周辺のデモ隊を規制するために多数の警察官が展開していた。特に、リーマン・ショック3周年の週末には、NY証券取引所に通じる道路は完全に封鎖されてしまい、いつもは多くの観光客が記念写真を撮っているお馴染みの雄牛像までもフェンスで囲われて、複数の警察官に守られていた。さらに、9月下旬には国連総会が開催されたために、Midtownは交通規制が実施され警察官だらけだった。

依然として、深夜の時間帯でもNY証券取引所周辺はフェンスで規制され、通常より多い警察官が警戒している。さぞかし今月は膨大な超過勤務手当が計上されるのだろうと想像するが、そんなNYに住んで早3回目の9月を過ごした

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近藤 智也
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政策調査部

政策調査部長 近藤 智也