一次産業としての再生可能エネルギー

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2011年09月21日

  • 河口 真理子
3.11の大震災と原発事故、それに続く計画停電や節電によって、われわれ日本人のエネルギーに対する見方、接し方が大きく変わりつつある。電力事業者に固定価格での再生可能エネルギーの買い取りを義務付ける再生可能エネルギー特別措置法も8月下旬に成立し、太陽光や風力発電に期待が集まっている。今まで多くの人にとって電気は大規模なダムや原子力や火力発電所など大規模なインフラから供給されるものであったが、個人でもソーラーパネルを設置すれば自分で作ることが可能な身近なものに変わりつつある。

そこで、更に再生可能エネルギーとの接し方を深化するためにも「再生可能エネルギーは一次産業」というキャッチフレーズを考えてみた。

日本では電力は第三次産業に分類されているが、主として化石燃料や核燃料を原料にしているため一般の認識としては製造業的なイメージが強いだろう。ではなぜ再生可能エネルギーは農業と同じ一次産業になるのか。そもそも農業ではその土地の養分、太陽の光と水と空気や堆肥で野菜や穀物を育てその一部を畜産のための飼料として間接的に、残りはそのまま食糧として食され、人のエネルギー源となる。一方再生可能エネルギーも、その土地の太陽光、水、風、バイオマスなどの自然にあるものを活用し、直接人が利用しやすいエネルギーを作り出す。実際に農業関係者は、こうした農業と再生可能エネルギーの親和性に着目している。また、昔から小水力に関しては用水路の水を活用して粉引きの水車を動かすなど、動力源として活用されてきた経緯がある。ここで、その親和性を発展させて「再生可能エネルギーイコール一次産業」と定義することで、再生可能エネルギーの更なる展開が視野に入ってくる。

たとえば、エネルギーも農産物とすれば、農機具メーカーはハイブリッドや電気のトラクターやコンバインと一緒に、あぜ道風車や用水路水車を個人の農家に、また組合などには太陽光発電や風車つきサイロ、バイオマスによる乾燥倉庫やバイオガス利用温室、地中熱利用冷蔵倉庫などを開発販売してはどうか。発電した電気は買い取り対象なので農家の収入増につながる。たとえば、特に畜産のし尿処理はコストも高く環境負荷も大きいが、これをバイオガスにすれば、処理コスト削減と電力収入につながる。また里山整備で出る間伐材でペレット燃料を作りボイラーやストーブに活用すれば、化石燃料の節約、CO2削減、里山整備にもつながる。また、農業と再生可能エネルギーが同時に学べるエコツアーなど観光資源に活用したり、グリーン証書つき農作物の販売なども考えられるのではないか。

また農村は広い土地に需要が分散しているため送電網を長く張りめぐらさなければならないが、電力がある程度自給できれば、コスト面でも電力の供給確保の面でもプラスとなろう。特に過疎の中山間地域では、地域の自立力を高め、新たな収入源を生み出すことで農村に活気をもたらすことも期待できよう。そして、日本の喫緊の課題、低い食糧自給率とエネルギー自給率の向上にもつながる。再生可能エネルギーの導入については、電力料金アップに議論が集中しがちだが、こうした多面的な活用方法とその社会的価値にも着目して夢のある取り組みに広げていきたいものである。

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