共働き世帯からみた子育て問題

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2011年08月08日

共働き世帯が子供を生み育てるには、社会環境の変化に応じた柔軟な保育所施設の運営が不可欠である。勤務地と居住地との距離や勤務形態により異なるが、充実した延長保育(開所時間が11時間を超えるもの)があれば、親は急な残業にも対応できるし、より自由な勤務形態や通勤場所等の選択も可能となる。一部の民間保育所ではこうした要望に応えるべく質の高いサービスを提供しつつあるが、今後もそうした保育所の数が一層拡大されることが望まれる。

都市部では保育サービスの供給不足による待機児童の問題が解消されない中、そのあおりを受けているのが保育所に預けられている年長の幼児である。都市部の保育所では敷地が限られているため、できるだけ優先度が高いと考えられる2歳児くらいまでの幼児を積極的に受け入れている。一方、年長の幼児については幼稚園という代替的な施設があるため、手狭な都市部の保育所としてはできるだけ幼稚園に移ってほしいと考えているところもある。ところが、幼稚園は設立の経緯からあくまで教育機関という位置付けであって、幼児を受け入れる時間が保育所に比べてはるかに短いという、利用者側からみれば大きな問題を抱えている。さらに、幼稚園では長期の夏休みがあること等から、子どもを幼稚園へ通わせる段階になると子どもの面倒を見る必要が生じるために、結局、親のどちらかが退職するかパートに切り替えるなどして仕事を抑制することになる。これと似たような問題は、小学校へ上がる時にも発生する。都市部では祖父母からの支援が得られない人々も多いため、事態は深刻だ。

もちろん、子どもと接する時間を増やすことは非常に大事なことであるし、親もそうしたいと望んでいる。しかし、現実には生活を維持するために仕事を続けなければいけない事情もある。現場の職員が努力していることは理解できるが、多くの保育所や幼稚園は、現実のニーズをくみとる最大限の工夫をし、経営的な感覚を磨いているといえるだろうか。

こうした問題が解消されないのは、認可保育所への補助金で保育料が安く抑えられており、価格を通じた需給調整が行われていないためである。保育料が安すぎると施設のキャパシティ以上に子どもを預けようとする人が増えるため、保育所にとっては顧客を失う心配はなく、供給するサービスの質を高めるインセンティブが存在しない。しかし、高い保育料でも優れたサービスが欲しい場合もある。そうしたところへ顧客が流れる仕組みがあれば、保育所や幼稚園も顧客を意識した経営をしないと淘汰されるという危機意識を持つことになる。共働き世帯の増加に迅速に対応できる企業が利益を得られ、それにより子育てで苦労している世帯が救われるシステムがないと、待機児童のような子育て問題は根本的に解決しないと思う。

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄