米国企業ガバナンスの不思議な合理性

2010年12月15日

米国証券取引委員会は、経営者報酬の株主総会議案化に関する規則を策定する作業を進めている。2011年の株主総会から、経営者報酬議案が総会に上程され、株主の判断を受けることとなる。報酬(PAY)について、株主が声を発するようになることから「SAY ON PAY」と呼ばれる。

わが国では、役員報酬については上限額を改定する議案として株主総会議案になることがあり、報酬に対する株主のコントロールが一応は及んでいる。しかし、米国では個別報酬の開示はあるものの、株主が賛否を問われることはなく、報酬委員会の判断は受けたとしても経営者報酬に対する株主の関与は無かった。今回のSAY ON PAYは、このような状況を変えるものとなる。

とはいえ、SAY ON PAYの決議は、勧告的決議(advisory voting)や非拘束的決議(non-binding voting)と呼ばれるもので、仮に過半数の反対があったとしても、会社は議案通りに報酬を支払うことも可能だ。拘束力が無い、いわばアンケート調査のような投票を株主総会でわざわざ行なうという制度改正であるが、勧告的決議や非拘束的決議は、米国の株主総会の大きな特徴のひとつだ。米国では株主提案が毎年非常に多く出るが、そのほとんどは非拘束的決議であり、仮に過半数の賛成を得ようと会社側は無視できる。日本や欧州のほとんどの国では、株主提案議案といえども、可決された以上会社側は従わなければならないのと対照的である。

この非拘束的決議は、無意味であり一部の株主の不満に対するガス抜き程度の効果しかないとも見えるが、もしかすると意外に合理的な制度なのかもしれない。企業経営を直接変化させることなしに企業経営に対する株主の総意を測る仕組みとして機能していると考えられるからだ。ある会社の経営に不満を抱いている株主は、例えば何らかの株主提案を出したアクティビスト・ファンドに共感を持っていないとしても、現在の経営に対する不満を発信するツールとして非拘束的決議を利用することが出来る。ファンドの提案自体は支持できるならば、投票を通じて経営陣に株主の考え方を伝えることができるだろう。非拘束的決議であるから、ファンドの提案を現在の経営陣がさらに改善することも可能だ。経営陣にとっても、株主からの信頼を失っているとなれば、それを回復するためにアクティビスト・ファンドからの提案も視野に入れた経営改善に自発的に取り組む切っ掛けになるのである。SAY ON PAYもそうだ。株主自身が適正な経営者報酬の水準を具体的に出せなくても、報酬が高すぎるというメッセージを送れるようになるわけだ。

非拘束的決議という不思議な投票制度であるが、激変を避けつつ株主の意見を集約して経営に反映させていく仕組みとしては優れているところもあるようだ。

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