包括利益導入による財務諸表利用者への影響

2010年9月29日

2010年6月30日、企業会計基準委員会(ASBJ)は、「包括利益の表示に関する会計基準」(以下、基準という)を公表した。コンバージェンスの観点から、現行のIFRS と同様の定めを設けたものである。

従来、わが国では包括利益の表示は強制されてこなかったが、米国会計基準においては既に導入されており、IFRSにおいても2009 年1 月1 日以後に開始する事業年度から導入されている。

「包括利益」は、「ある企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分」と定義されている。

「包括利益」は、差しあたって連結財務諸表においてのみ導入されることになっており、少数株主損益調整前当期純利益と「その他の包括利益」(以下、「OCI」という)から構成される。OCIの内訳項目は、その内容により、(1)その他有価証券評価差額金、(2)繰延ヘッジ損益、(3)為替換算調整勘定などに区分して表示する。

アナリスト・投資家等は、今後の利益予想を重視しているため、包括利益が導入された後においても、当期純利益、あるいは営業利益等の本業の利益等、予想可能な利益を、今後も企業分析のベースとするであろう。

では、包括利益はどのように活用されるのであろうか。

財務諸表の利用者が期首・期末の貸借対照表から計算しないと入手できない数字が、「包括利益」という単一の指標によって投資家に表示されることで、企業の時価変動リスク等が明確に把握されるようになる。本業の利益が黒字であっても、包括利益が赤字であれば、全体としての企業価値は毀損されていると判断されることになる。すなわち、包括利益は、企業価値の毀損という事実を明確に伝えることになる。

さらに、財務諸表の利用者に対し、当該企業の退職給付、証券投資、為替に関するマーケットリスクへの抵抗力を明示することになる。財務諸表の利用者は、本業の利益と比較してそのリスクが過大であるかどうかを把握するのに活用するであろう。

財務諸表利用者が、包括利益を通じて、企業の財務実態を正確に把握することができるようになるというのは、「包括利益」を導入する大きなメリットである。

また、投資家にとっては、経営者に対して株式持合い等の説明責任を問うために、議決権行使のガイドラインに包括利益の基準を取り入れるといった活用も考えられるであろう。

作成者側からは何かと批判の多い包括利益ではあるが、利用者による、上述した内容に限らない、有効な活用が期待されるところである。

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