検討される「Pay Gap」の公表

2010年9月14日

今年から有価証券報告書に、報酬総額が1 億円以上の役員名と金額、役職別・支給項目別の報酬総額、報酬額を決定する方針や算定方法が開示されるようになった。これは、役員選任により会社経営を委任している株主としては、委任に関する費用を知る当然の権利だと考えられたからだ。また、役員報酬の個別開示は、米国、英国では既に行われており、国際的な資金調達を円滑におこなうためにも、投資家に向けて諸外国と同様の情報を開示することは有益であると。3月決算会社ではおよそ290名が1億円超の報酬を得ていることが明らかにされたし、会社ごとに濃淡はあるものの役員報酬に関する会社側の考え方も情報開示が進んだ。

報酬関連情報の開示で日本の先例となっている米国では、開示事項をさらに追加することが検討されている。追加される開示事項は「Pay Gap」である。これは、男女間の賃金格差を指す場合もあるが、米国SEC(証券取引委員会)では、経営者と従業員の報酬格差のことを意味している。ドッド・フランク法によりCEOの報酬額と従業員の報酬の中央値(Median)、そしてその比率を開示事項に加えることが決まった。

Pay Gapによって、経営者と従業員の間での利益の分配状況がわかるようになる。労務政策と報酬政策を簡潔に表示する数値ということであろう。とはいえ、これが果たしてどのような意味で有益な情報であるか、疑問も大きい。Pay Gapの大小は例えば投資判断にどう影響するべきなのであろうか。会社ごとに報酬体系が異なるのに、単純化した数値を比較できるか問題であるし、CEOの株式報酬の価値を正確に算定できるかも疑問だ。実務上は、特に国際的に事業を展開する大規模会社の場合に従業員の報酬の中央値をどのように算定するのか問題になる。従業員の定義に全世界で雇用する者を含めるとすると、各国の各人別報酬をSECが定める基準に従って算定し、為替換算しなおして、その中央値を得るための作業を行なわなければならない。

米国では、2011年の株主総会シーズンから役員報酬を議案として上程し株主に諮る「Say On Pay」が始まる。Say On Payは、Advisory Vote、つまり会社側を拘束しない勧告的決議であり、仮に反対が多数を占めても報酬議案通りに支払いを行なって問題は無いが、報酬見直しを迫る事実上の圧力となる。今後詳細が決められるPay Gapの開示は、Say On Payにおいて報酬議案を精査する株主に検討材料を与えるものだ。前記の通り、その趣旨や算定方法に疑問も残る開示事項ではあるが、不相当に高額な報酬であるかどうかを評価する一指標となるだろう。

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