持合い、役員報酬などを巡る開示府令改正案の公表を受けて

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2010年02月19日

2010年2月12日、金融庁は『「企業内容等の開示に関する内閣府令(案)」等の公表について』を発表した。その内容は多岐にわたるが、コーポレート・ガバナンスに関連する、次のような内容が盛り込まれている。

  • (1)株式の保有状況の開示(いわゆる株式持合い開示)
  • (2)役員報酬等の開示
  • (3)議決権行使結果の開示
  • (4)コーポレート・ガバナンス体制の開示

これらは、2009年6月17日、金融審議会金融分科会の「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」が発表した報告書「上場会社等のコーポレート・ガバナンスの強化に向けて」が提言した事項のうち、2009年中に対応されなかったものである。このうち、特に注目を集めているのが、「(1)株式の保有状況の開示(いわゆる株式持合い開示)」と「(2)役員報酬等の開示」であろう。

「(1)株式の保有状況の開示(いわゆる株式持合い開示)」では、政策投資など「純投資以外」の目的で保有する株式のうち、(イ)資本金の1%を超える銘柄、(ロ)貸借対照表計上額の上位30銘柄、のいずれかに該当するものについて、銘柄、株式数、保有目的、貸借対照表計上額を開示することが求められている点が大きいだろう。

もちろん、開示されるのは「保有状況」であって「持合い状況」そのものではない。しかし、各社の開示内容を照合することで、上場会社間の持合い状況が、いわゆる「片持ち」も含め、ある程度浮かび上がってくることは確かだろう。その意味で、厳しさを増す株主・投資者の視線に対し、上場会社はより高い説明責任を要求される可能性が高いだろう。

「(2)役員報酬等の開示」については、報酬等の額が1億円以上の役員について、報酬等の個別開示(種類別)が要求されている点が注目される。

欧米の主要企業と比べて、わが国企業の役員報酬等は比較的少額だとして、その効果は限定的ではないかとの報道も見られる。確かに、そうした面があることは事実だろう。しかし、一定以上の報酬を受領している役員について、その内容が明らかにされることは、インセンティブ構造が適切に構築されているかを含めて、株主・投資者に重要な判断材料を提供するものであることも事実だろう。今後、役員選任議案や報酬議案に対する議決権行使にも影響を及ぼすことが予想されよう。

これらの改正が原案通り実施された場合、2010年3月31日に終了する事業年度に係る有価証券報告書等(3月決算会社の場合、2010年3月期)からの適用が予定されている。有価証券報告書の提出のタイミングの問題などがあることから、今年の株主総会でこれらのテーマが直接、争点となるか否かは明らかではない。しかし、上場会社にとって、株主・投資者を意識した適切な対応が求められる課題であることは間違いないであろう。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳