日本の「遊び心」を積極的に評価しよう

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2010年02月04日

  • 中里 幸聖
マスメディアの報道姿勢などもあり、我が国は閉塞感に覆われて久しいが、そろそろ自信を取り戻すべく視野を変えてみてはどうだろうか?統計的に把握可能な事実や客観的な根拠は重要であるが、「世界は感情で回ってる。そのおこぼれにあずかるのがビジネスさ」(柳原望「まるいち的風景」4巻、白泉社、2000年)(※1) という発想はいかがだろうか?

「世界カワイイ革命」(櫻井孝昌、PHP新書、2009年11月)という書籍では、フランスやイタリアなどの欧州やタイや韓国などのアジアにおいて、若い女性を中心に、原宿に象徴されるようなファッションが大いに支持されている様子が紹介されている。「カワイイ」は既に世界語と化し、「日本人になりたい」、「日本の女子高生の制服は自由の象徴です」などと語る現地の若者の姿を取材している。

また、既に知られているように日本のマンガやアニメ、ゲームは世界中を席巻し、特にマンガやアニメは日本人の日常生活や感性を無意識レベルで世界の人々に伝達する役割を果たしている。筆者の経験でも、2003年にベルリンで立ち寄った街の本屋で「KAWAII」というタイトルの雑誌を見かけたことがある。ちなみに、その雑誌は日本の美少女アニメを中心にしたものであった。

マンガやアニメ、ゲーム、原宿ファッションなどはいずれも自分達自身が楽しむために創作してきたものである。いわば「遊び心」の発露あるいは自己表現の欲求などが根源にある。それらが他者にも支持された結果として収益が生まれることになるが、我が国のコンテンツ消費者の感性は非常に鍛えられているので、儲けようという動機が先に立つ場合はすぐ見透かされる。

我が国では古来よりこうした「遊び心」を研磨していくことに熱中してきた伝統がある。茶道、華道、花火、浮世絵などいずれも「遊び心」へのこだわりが昇華したものといえよう。欧米先進国では軍事分野の技術革新が民生分野に波及した事例が多いが、我が国では民生分野での技術革新がリードしている事例が多いのは、こうした伝統あるいは日本人の性質が影響していると考えられる。「遊びをせんとや生れけむ」(後白河法皇編「梁塵秘抄」より)は日本人の感性に非常にしっくりくるのではないだろうか?

日本人自身が楽しむために創作したものが、今や世界の若者に支持されている。そう考えると、我が国の「遊び心」から生み出された様々な成果に自信を持ち、もう少し組織的に世界に普及させるような活動をすれば、我が国の閉塞感を打破る契機となり、そこに新たなビジネスチャンスも生じるであろう。キリスト教の布教活動を原点としていると思われる欧米諸国の様々な価値観の普及活動を多少見習うのも一案かもしれない。

(※1)178頁より。現在は文庫版で入手可能。文庫版の場合は、2巻380頁。

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