「SRI」から「RI」またはESG投資へ

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2009年09月10日

  • 河口 真理子
エコファンドが日本に登場して10年。このエコファンドに代表されるSRI(Socially Responsible Investment:社会的責任投資)という言葉も社会にある程度認知され定着してきた。これは基本的に企業の環境対応や社会的な取り組みの評価を加味した投資、と理解されている。ただしこのSRI、環境や社会問題に関心のある層からは好意的に受け止められているが、投資関係者には必ずしも好意的には受け止められていない。そのことが一つの理由だと考えられるが、最近、世界的にSRIという言い方とその定義を微妙に変える動きがでている。

代表的な動きが、責任投資原則(Principles for Responsible Investment、PRI)という国際的なイニシアチブである。これは、国連環境計画金融イニシアチブ(UNEPFI)、及び国連グローバルコンパクトが共同で策定した原則で、「ESGに配慮したRI(Responsible Investment:責任投資)を行うこと」を謳ったものである。ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(コーポレートガバナンス)のそれぞれ頭文字をとったものである。この ESGに配慮した投資のことは、SRIではなく、最初のS(Social)をとってしまい「責任投資」と称されている。なぜわざわざSをとったのか。どうもSocial(社会)という言葉に対して否定的な印象を持たれるケースが多いことと、SRIというと、社会運動家や宗教団体の南アや武器排除などの特殊な倫理感を目的とした投資というイメージが強すぎるからだと推測される。なぜならRIは、倫理目的ではなく、パフォーマンス向上と社会的課題の解決のために行うことがその前文で謳われているからである。

その根底には、ESGの要素を考慮した投資(すなわちRI)のほうが企業価値評価の精度があがるはず、という哲学がある。また受託者責任の観点からすると、年金基金では倫理に基づくSRIはできないが、企業価値のためのESG投資なら可能となる。ちなみにこのPRI、署名できるのは年金基金などの資産所有者と運用機関とサービス機関であるが、2006年4月にPRIが発足して以来、欧米の大手公的年金を中心にこの8月現在での署名機関は573機関にのぼる。大和証券グループでは、大和証券投資信託委託が発足時から署名しているが、日本の署名機関はまだ13機関と少なく、かつこの中に公的年金はいない。これは、世界600兆円といわれるRI市場に対し日本市場は1兆円にも満たないという実情を反映している。しかし、民主党政権が新たに発足する今、SRIではなく「RI」、あるいは「ESG投資」という新たな名前で、環境や社会という非財務要素を考慮した投資という考え方を導入することは、日本の年金基金制度にも、長期運用を日本の市場にもプラスに働くのではないか。

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