50年ぶりの相続税抜本改革

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2008年11月12日

昨年、与党税制協議会より公表された平成20年度税制改正大綱では、「新しい事業承継税制の制度化にあわせて、相続税の課税方式をいわゆる遺産取得課税方式に改めることを検討する。その際、格差の固定化の防止、老後扶養の社会化への対処等相続税を巡る今日的課題を踏まえ、相続税の総合的見直しを検討する」(下線筆者)としており、来年度以降の相続税抜本改革を示唆している。

昭和33年以来相続税の抜本改正は行われておらず、来年度に改正が行われれば、約50年ぶりの大改正となる。

遺産取得課税方式とは、個々の相続人等を納税義務者とし、相続人等が相続した財産に対して課税する方式である。

相続税の課税方式が遺産取得課税方式に改正された場合、課税の対象となるのは現行の被相続人の遺産総額ではなく、各相続人が相続した相続財産となる。

各相続人が相続した相続財産が課税の対象となれば、現行の基礎控除や配偶者控除等の見直しが行われることになる。例えば、一人の相続人に相続財産が集まった場合でも、現行制度では、相続人数分の基礎控除額が適用されることにより、相続税がかからない場合も多い。しかし、遺産取得課税方式のもとでは基礎控除額が個人単位で設定されるため、相続税が課税されるケースが増加することが考えられる。したがって、相続税の対策が大きく変わることが予想されるのである。

ところで、昨年の政府税制調査会の答申では、「これまでの改正により大幅に緩和されてきた相続税の負担水準をこのまま放置することは適当ではなく、相続財産に適切な負担を求め、相続税の有する資産再分配機能等の回復を図ることが重要」とし、相続税の課税強化を示唆している。遺産取得課税方式の導入は、相続税の課税強化に向けて行われるものと思われる。

現在、相続税が課税される人の割合は4.2%であり(国税庁、相続税の申告事績(平成18年分)及び調査事績(平成18事務年度分))、国税収入に占める相続税の割合は、3.1%に過ぎない(2008年度の決算額に占める構成比)ため、相続税の課税を強化しようとしているのであろう。

報道によると (※)自民党税制調査会の柳沢小委員長は、相続税は基本的に税収中立にするとし、2009年度の税制改正で、最高税率の引き上げなどの増税措置はとらないとしているが、遺産取得課税方式が導入されれば税負担が増加する人も出てくるだろう。

世界的にみれば、相続税は既に廃止されている国や、あるいは廃止が提案されている国もある。

それでも、相続税の課税を強化する必要があるというのでれば、まだまだ慎重な議論が必要なのではなかろうか。

(※)2008年11月9日付日本経済新聞 朝刊

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 鳥毛 拓馬