バブル期に形成された120兆円の金融資産をリスクマネーに

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2008年07月14日

  • 大和総研 顧問 岡野 進
日銀資金循環表に拠れば、日本の家計金融資産は、2008年3月末で1,489兆6,147億円となっている。1年前に比べて55兆3,450億円の減少となった。2007年度に家計は21兆329億円の貯蓄を行ったが株式などの価格下落が総額としての金融資産の減少をもたらしてしまった。価格下落の影響額をストックの増分とフローの差で計算すると、株式31兆1,788億円、出資金29兆5,368億円、投資信託12兆3,271億円などとなっている。このうち出資金については概念としては上場株式以外の出資を時価評価したものであるが、実際には家計分は上場株式の分布で按分されて作成された統計なので正確性は低いと思われる。

一方、総務省家計調査によると日本の勤労世帯の保有する金融資産(貯蓄現在高)は2007年9月末、2人以上世帯で世帯当り平均1,750万円、うち勤労世帯は1,277万円である。2人以上世帯数は3,460万であるから、総額はざっと605兆円となる。資金循環表の家計金融資産は出資金を除いても1,263兆円(2007年9月)はあるわけだから大きな差がある。残りが単身世帯の金融資産なのだろうか?単身世帯の貯蓄現在高の統計はないが、逆算すると単身世帯数が1445万だから、単身世帯の1世帯当り金融資産は4,554万円になってしまう。まさかこのようなことは実際にはないだろう。特に株式・投資信託に着目すると家計調査では2人世帯で世帯当り182万円、総額は63兆円程度になる。資金循環表(2007年9月)では172兆円となっているのでギャップはさらに大きい。

普通の勤労世帯からみると家計調査の数字はそんなに大きく事実から懸け離れたものではない印象だ。つまり、おそらく総務省家計調査には本当の資産家が含まれていないことが原因なのではなかろうか。日本には少数だが巨額の金融資産を持つ富裕層が存在しているのだろう。この事情は日本銀行の統計の解説(※1)でも「ごく一部の人が多額の金融資産を保有している結果、平均すると実感に合わなくなっている可能性もあります。」と解説されている。

国民経済計算のストック統計からみると、バブル期の86~91年の5年間で家計の現金・預金は211兆6,317億円増加している。家計のもうひとつの大きな資産である土地は評価額で同期間に701兆3,692億円増加した。しかし、時価の変動と取引を分けてみると、実は家計は113兆1,247億円分土地を売り越している。株式についても家計の保有分は65兆8,558億円増加しているが、買い越した額は7兆6,421億円に過ぎない。つまり、この時期に不動産を売却した資金はほとんど預貯金に固定されてしまった。

国税統計年報によると、86~91年度の長期譲渡所得は70兆5,445億円で、非常に大きなキャピタルゲインがこの期間に実現されていた。この70兆円はリスクマネーとして金融・資本市場に還流しないまま預貯金になっている。当時からの利子も込みで考えると現在では120兆円の規模にはなっているはずである。この金融資産をリスクマネーに転換できるかどうか、これが金融・資本市場活性化の第一の課題であろう。

(※1)日本銀行ウェブページ「資金循環統計からわが国の金融がどこまでわかるか」

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