金融所得課税一体化が、金融グループ再編の契機に

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2008年07月02日

  • 吉井 一洋
平成20年度税制改正により、株式の10%税率は、上限(配当が年100万円、譲渡益が年500万円まで)付で2009年、2010年の2年間存続することが決まった。与党の平成20年度税制改正大綱では、今回の措置を金融所得課税一体化に移行するための特例措置と位置づけている。

その金融所得課税一体化だが、対象となる金融商品・金融所得の範囲、税率や導入時期もさることながら、どのような納税方法・システムを用いるかという点が、非常に重要である。一体化の支持者の中では、特定口座の活用が検討されている。2010年からは、源泉徴収付の特定口座(源泉徴収口座)内で配当と譲渡損の損益通算が可能となる。これを金融所得全般に拡大すれば、源泉徴収口座で損益通算を行った上で、証券会社・銀行等が源泉徴収を行い、投資家は確定申告無しに、損益通算・納税を行うことが可能となる。

一体化により、株式の譲渡損と預貯金の利子の損益通算が可能となったとしても、株式は証券会社が取扱い、預金の利子は銀行が取り扱う。したがって、株式譲渡損と預貯金の利子は、同じ源泉徴収口座内では通算できず、確定申告で損益通算を行うことになる。しかし、メガバンクの場合は、顧客が同一グループの銀行、証券のそれぞれにおいて開設した特定口座を集約し、まとめて損益計算・源泉徴収する仕組みを設けることは可能である。2008年6月6日に成立した金融商品取引法でも、個人の顧客情報については、顧客の書面による同意があれば、グループ内で共有可能としており、メガバンクグループは、いずれそのような方向を目指していくものと思われる。

一方、証券会社は大手といえども、全国展開する銀行を傘下には持たない。銀行でも地銀などの地域金融機関では、グループ内に証券会社を持たないところが多数である。これらの証券会社や地銀等の地域金融機関においても、メガバンクグループとの競争上、自社の顧客が、同等の納税事務上の利便を享受できるよう対応を求められていくことになろう。例えば、証券会社と大手銀行、大手証券会社と地域金融機関、あるいは地域の証券会社と金融機関とが連携し、顧客の同意を得た上で特定口座内で取引情報と納税資金をやりとりし、連携業者のうち顧客が指定した業者がまとめて納税する方法など、様々な方法を模索していくことになるのではないかと思われる。その場合、顧客情報のやりとりが必要となること、システムの内容もある程度揃える必要があること等を考えると、相当密度の濃い連携を結んでいくことになるのではないかと思われる。ひいてはそれが新たな金融グループの再編への動きへと繋がっていく可能性もある。今後数年間の金融税制改正の行方と証券会社・金融機関の対応が注目されるところである。

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