住宅不況の反動増はなぜわずかなのか

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2008年05月19日

  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦
2007年は、改正建築基準法による住宅不況に大きく揺れた1年だった。07年の住宅着工戸数は106万戸となったが、過去10年間の平均が122万戸であったことを考えると、16万戸程度、改正建築基準法の影響で押し下げられたと考えられる。となると、改正建築基準法の影響が解消した場合、例年の水準(122万戸程度)に16万戸を上乗せした138万戸程度の着工となるはずである。しかし、現時点では住宅投資の回復は非常に緩やかなものにとどまっており、反動増はわずかとなっている。

反動増がわずかな理由の第1点としては、供給能力の回復が緩やかであることが挙げられよう。改正建築基準法の主なポイントとしては、(1)申請図書の増加、(2)確認審査期間の延長、(3)構造計算適合性判定制度の導入の3点が挙げられる。構造計算適合性判定制度とは、一定の基準を超える大きさの建築物に関しては、建築確認申請を行った設計事務所とは別に、同等または同等以上の能力・資格を有する機関による申請内容の再確認(ピアチェック)を義務付ける制度である。このピアチェックが大きな問題であり、判定員の絶対数不足、構造計算に関する大臣認定プログラム開発の遅れ等により、審査能力が不足していることが住宅投資回復のボトルネックとなっている。

次に理由の第2点として、住宅需要の減少が考えられる。住宅需給を表す代表的指標の新規マンション契約率を見ると、05年8月をピークに低下傾向にある。しかも足元ではバブル崩壊後の91年以来の低水準となっている。このマンション需給の緩和は、景気拡大に伴い住宅ローン金利と住宅価格の上昇する一方で、賃金が上げ渋ったことにより、家計の住宅取得能力が低下したことが原因であると考えられる。

今後の見通し

供給面に関しては、2月22日に法改正後初めて構造計算プログラムが大臣認定を取得しており、今後普及が進むと思われること、国土交通省が業界団体を通じて判定員の確保等を要請していることにより、供給能力は08年夏ごろまでに回復すると予想される。

しかし一方で、需要面に関しては緩やかな減少に向かう可能性が高い。需給の緩和を受けて住宅価格の下落が期待されるものの、企業の業況は悪化傾向にあることから、賃金上昇が期待できない点や、住宅ローン金利の低下余地が小さい点を考慮すると、家計の住宅取得能力が大きく回復するのも難しいだろう。

住宅の供給制約が解消したころには、需要がないといった状況が想定される。今後も住宅の大幅な反動増は期待薄と思われる。

首都圏マンション契約率とマンション着工
 (注)データは3ヶ月移動平均
(出所)国土交通省、不動産経済研究所、大和総研

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橋本 政彦
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ロンドンリサーチセンター

シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦