分業は生産性向上に必要か?

2008年5月9日

日本の優れた技術力は、多くの優秀な職人によって支えられている。高い技術力は模倣することが難しいため、国内外での高い競争力に貢献する。しかし、分業が高度に進むことは、一方で賃金を高止まりさせる原因の一つでもある。その人でないと生産できないのであるから、他の誰でも良いというわけにはいかない。結果的に高い賃金を払ってでも雇わざるを得ない。もし、現在の日本で必要以上に分業化が進んでいるのであれば、高コストを生み出す分業の存在が、生産性を下げている原因の一つかもしれない

かつて日本が第2次世界大戦後に高度経済成長を達成できたのは、地方の農村部に大量の優秀な人材が存在しており、安価な労働力を都市部で大量に活用できたことが挙げられる。しかし、農村部からの人材流出が進むと次第に賃金の安い人材が枯渇し始めるので、賃金が上昇して企業収益を圧迫するようになる。すると、企業は海外の安い労働者を活用するようになるとか、より効率的な機械や安価な原材料を利用して生産コストを下げようとする。但し、あらゆる仕事を機械にうまく代替できるわけではないし、代替的な原材料がうまく見つからない場合もある。ではどうすればよいか。

そもそも労働コストが上昇してしまうのは、ある生産活動に従事できる人材が限られており、ごく普通の労働者と代替しにくいからである。分業化は効率的な生産活動を行う上で望ましいが、時間が経つと、分業化は労働コストを高める原因となりうるし、また経済構造は絶えず変化するため、かつて必要であった分業が現在も必要かどうかを検討する余地がある。こうした時間を通じた分業の硬直化が、生産性低下の原因ではないだろうか。

分業の硬直化を回避するためには、生産技術を標準化するのが望ましい。労働者が取得すべきノウハウも大幅に単純化されるために、市場に大量に存在する安い普通の労働者を活用して、企業は労働コストを抑制することが可能になる。これまでその当事者でないと生産が難しかった分野を、あらゆる人に開放する環境を整えることが、日本の生産性の向上の一つとして必要だと思われる。このような状況は、実は現在の日本の非正規雇用の増大に当てはまり、短期的には企業の生産性向上に貢献してはいる。しかし、長期的には日本の技術蓄積が棄損されている懸念も考えられ、企業の短期的な競争力向上と引き換えに、日本企業全体が一種のナッシュ均衡(※1)に陥っている可能性がある。

長期的な戦略に立つと、技術やノウハウの蓄積がないと競争力のある製品やサービスを生産することが出来ない。その意味で、優秀な職人の存在そのものはやはり重要である。結局は、時間軸をどこに設定するかによって、生産性の議論は分かれるといえるかもしれない。

(※1)お互いが相手の行動を読んで行動する場合、結果的に双方にとって望ましくない状態がもたらされてしまう状況を指す。これは、お互いが協力すれば望ましい結果が得られるが、相手を出し抜けばより一層利益が得られるために発生する。

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