“恥を知れ”と怒る米国、“苦労しているんですよ”と嘆く日本

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2008年04月18日

普通ならば、4月の今ごろには共和党(The Republican Party)と民主党(the Democratic Party)両党の大統領候補が出揃っているはずだが、今回の大統領選挙に限れば、民主党の候補者選びが長期化している。現時点では、バラク・オバマ上院議員が獲得代議員数でリードしており、残る大票田のペンシルバニア州(4/22)等でヒラリー・クリントン上院議員が大勝しないと逆転は難しいとされる。議員や州知事など党有力者で構成される特別代議員の支持を多く集めれば、クリントン陣営に勝機が出てこようが、特別代議員が各地の予備選・党員集会の結果や世論に反する投票行動を取りづらいのも事実。逸早く共和党の候補者がジョン・マケイン上院議員に一本化されたこともあり、オバマ支持を打ち出してクリントンサイドに指名争いからの撤退を促す議員が増えている。

しかし、四面楚歌状態のクリントン氏は撤退要求を拒否し8月の党大会まで戦う意思を表している。実際、4/1のフィラデルフィアの集会では、映画ロッキー(舞台がフィラデルフィア)の主人公になぞらえて、“止めないしあきらめないI never quit. I never give up”と述べた。なお、彼女が知っていて引用したか分からないが、映画では主人公Rocky Balboaは15ラウンドをフルに戦ったものの、判定で負けたのである。世界チャンピオンになったのは2年半後に公開された“ロッキーII”のなかのこと。また、主人公を演じた俳優のスタローン氏は、1/24にマケイン氏の支持を表明している。

4/13、崖っ縁に立つクリントン氏側がオバマ氏の失言を執拗に攻撃したためか、オバマ氏は集会の演説なかで“Shame on her”と繰り返し述べた。Shame on her、つまり“恥を知れ”と対抗馬のクリントン氏を非難したわけである。但し、“Shame on ○○”と叫んだのはオバマ氏が先ではない。2/23、クリントン氏は“Shame on you, Barack Obama(恥を知れ、バラク・オバマ)”と怒っている。これも、オバマ陣営が作成したクリントン批判の冊子の内容にキレたためと報道されている。このように、両者の泥仕合が深刻になるなかで、最終的に候補者が決まった後、民主党内が本当にまとまれるかという懸念がでている。

一方、日本の民主党(The Democratic Party of Japan)をみれば、政府が提出した日本銀行の総裁・副総裁人事案に対して不同意を連発している。その理由として、民主党は「財金分離」という考え方を金科玉条の如く主張しているが、海外の中央銀行には財務省出身の中央銀行首脳など枚挙に遑がなく、素人の著者には合点がいかない。確かに、党派色が強い米国の場合でも、上院の多数を握っている民主党によって人事案が一年近く店晒しされ、FRB理事2名(定員7名)は空席のままだ。だが、ホワイトハウスが発表した指名候補者の経歴に財務省の文字はみえない。FOMCの現職メンバーでは、副議長であるNY連銀のガイトナー総裁は財務次官を、直近2回大幅利下げに反対票を投じたダラス連銀のフィッシャー総裁は財務次官補を務めた経歴を持つ。また、歴代のFRB議長をみても、インフレファイターとして名を馳せたボルカー元FRB議長は財務次官を務めた。ミラー元FRB議長のように財務長官に転じた者もいるが、グリーンスパン前議長よりも任期が長かったマーティン元議長に至っては、1951年にFRBと財務省がアコードを締結した際の財務省側の交渉担当者だった。まさに、「人物本位」、「適材適所」といえるかもしれない。

福田首相も、不同意直後の党首討論で「たいへん苦労しているんですよ。かわいそうなくらい苦労しているんですよ」と嘆かないで、いっその事「コンチクショウ、恥を知れ」とでも言えばよかったのに。

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近藤 智也
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政策調査部

政策調査部長 近藤 智也