中国:物価上昇への対応と留意点

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2007年09月27日

中国の8月の消費者物価上昇率は前年同月比+6.5%と96年12月(7.0%上昇)以来の高い上昇率となった。主因は構成ウエイトの1/3を占める食品価格の高騰であり(前年同月比+18.2%)、当然、この影響はエンゲル係数の高い低所得者ほど大きくなる。食品価格高騰により、一部では「如何に食費を安く抑えるかという段階から、食べる量を減らす段階」に陥っている人々がでているという。中国人民銀行が8月中下旬に実施した全国アンケート調査によると、「物価が高すぎ、受け入れがたい」との回答は前期比+17.6%ポイント上昇の47.1%に達し、物価上昇に対する国民の不満が大きく高まったことが示されている。

10月15日から開催予定の中国共産党第17回党大会(5年1度開催される最重要会議)を間近に控え、社会の安定を最重視する胡錦濤政権にとって、物価の安定化や低所得者層への対応は喫緊の課題である。対応策の骨子は、(1)豚肉などについては、補助金などによる生産奨励(供給増加)、(2)業界団体の談合による協調値上げや根拠のない値上げ、噂の流布の禁止など価格監視強化、であり、経済的弱者に対しては、年金、最低賃金、生活保護の引き上げが実施されている。

ただし、物価の安定を強調するあまり、値上げが全て「悪」だとの雰囲気が蔓延することは、企業の利益環境にとってのリスク要因である。例えば、石油・電力各社は、原材料価格の上昇を理由にガソリンや電力価格の引き上げ申請を数回にわたり行っているが、いずれも認められていない。これでは、生産企業は当該分野の業績悪化を余儀なくされるであろうし、消費企業や消費者にしてみれば、節約や効率的利用のインセンティブが働かないことになる。食品価格高騰のあおりはこんなところにも表れている。

物価上昇が続けば、金利引き上げペースも加速しよう。金利政策の重点は、投資過熱抑制から物価抑制に移っている。金利引き上げで食品価格の高騰が抑制されるわけではないが、現地でのヒアリングでは、当局は非食品価格への波及効果や便乗値上げなどを警戒し、予防的な措置を講じているという。もうひとつ指摘されるのは、預金金利の引き上げ幅の相対的な拡大である。8月時点の実質金利(1年物預金金利-消費者物価上昇率)は-2.9%までマイナス幅が拡大し、預金の魅力低下が株式市場への大量の資金移動を招いていることもある。5月と8月の利上げにおいて、預金金利の引き上げ幅(0.27%)が、貸出基準金利(0.18%)より大きかったことから、銀行の基本預貸スプレッドは当初の3.6%から3.42%へ低下した。中国の銀行業は依然として分厚いスプレッドを享受しているものの、利益の源泉であるスプレッドの縮小という方向の変化には注意が必要であろう。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登