交通インフラ事業の改革

2007年9月18日

近年、我が国では公益とみなされる分野において官民の役割分担の見直しが大きな潮流になっている。時の政権によって加減速はあるだろうが、この潮流を断ち切る選択肢は現実的ではない。改革がどのようなスピードで、どのような形で行われるかは、これからの日本経済の姿を大きく規定することになるだろう。

公益分野の一端をなす交通ネットワーク事業は、経済基盤の一翼を担う一方で日常生活上も身近な存在であり、公営、民間あるいはその中間など様々な形態でのサービス提供が混在している。そこで進められている官民の役割の見直しは、今後、日本経済がグローバル化された世界の中で生き残っていくためにも、日々の生活の豊かさを維持していくためにも重要である。

歴史的に見ると、交通インフラの整備は、当初は民間による小規模のものが多かったが、行政部門が発達するにつれ国策として大規模に整備が進められてきた。しかし、近年では、経済の成熟や財政の肥大化、非効率性の増大にともなって運営主体を民営化する流れが世界的に見られる。交通ネットワーク事業は、公益性の確保が求められる一方で、事業継続のためにはある程度の収益性、効率性の追求も求められることが、民営化をはじめとする事業形態の再構築の流れとなっていると考えられる。

交通ネットワーク事業は、拠点と路線によって構成されるネットワークの整備や維持管理を行うインフラ事業と、そのインフラの上で行われる運輸事業の2つの事業に分類される。運輸事業はインフラ事業と一体で行われる場合もあるが、全く異なる事業者によって行われる場合もある。

このうち基本的にインフラ事業と関わる事業において、公共部門が担うべき事業との認識が広くもたれてきた。交通ネットワーク事業は一般に(1)外部性(※1)と(2)共同消費可能性(※2)という「公共性」を持つ上に、交通インフラ整備には巨額の資金と長期の時間がかかり、局所的なものを除いて、民間部門では手がけにくいと考えられてきた。

事実、民間部門が十分に育っていない途上国や終戦直後のわが国では、公共部門が交通インフラを整備することは、経済生産性から考えても有効であったと思われる。しかし、インフラ整備が進展し、経済も発展してくるにつれ、さまざまな非効率性や不公平性の問題が相対的に大きくなってきた。

そのため、各国・各分野において公益性を確保しつつ、効率的な事業運営を行える仕組へと移行する試みがなされ、「民営化」「官民連携」「ガバナンス改革」といった改革が実施されている。

1980年代の国鉄民営化は主要国における交通ネットワーク事業改革で先行事例となったが、90年代にはわが国の改革は停滞局面に陥った。しかし、2000年代には、道路公団、営団地下鉄、成田空港などの株式会社化が進められ、スーパー中枢港湾構想(※3)推進や各地の公営地下鉄への民間的経営手法導入など、改革が再び動き出している。これらの改革の成果はまだ十分とはいえないが、公益性を確保しつつさらに改革を進めて交通ネットワークの活力を高めることが、わが国経済の活力維持にも資することになろう。

なお、わが国の交通インフラ事業の展開と今後の改革ビジョンについては、山重慎二[編著]/大和総研経営戦略研究所[編著]『日本の交通ネットワーク』(中央経済社)として刊行しており、第I部で理論的考察、第II部で鉄道、道路、空港、港湾、地下鉄・バス・路面電車について現状と課題をまとめている。この分野について、さらにご関心のある方はぜひ手に取っていただきたい。

(※1) 拠点や路線周辺の消費者や事業者に便益や不利益が発生することなどをいう。

(※2) 規模の経済性とも表現し、多額の初期投資が必要であるが、共同利用が可能なため追加的利用による追加的費用は少ないことをいう。

(※3)わが国港湾の国際競争力の重点的な強化を目的とし、(1)港湾の広域提携促進によるコンテナターミナル集約化、(2)大規模ターミナルオペレーター育成、(3)港湾コストの3割削減、(4)リードタイム短縮化などを目指している。具体的には京浜港(東京、横浜)、阪神港(神戸、大阪)、伊勢湾(名古屋、四日市)が指定されている。

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