インカムゲイン偏重からおカネの流れが変わる

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2007年08月29日

  • 大和総研 顧問 岡野 進
8月中旬は米国のサブプライム・ローン問題に発した金融問題の広がりから、金融資本市場ではこれが全般的な金融収縮につながるのではないかという懸念も生まれてしまった。日米欧豪などの中央銀行は市場への大きな流動性の供給を行い市場の混乱を最小に留めようとしている。8/17には、米FRBが臨時FOMCを開いて公定歩合を0.5%(6.25%→5.75%)切り下げた。「株価対策」や「景気対策」としてではなく、サブプライム・ローン問題に端を発した国際金融資本市場の混乱回避を狙って機動的な対処を行ったものである。実際に連銀が預金金融機関に行う公定歩合での貸出額は、通常は数億ドルの規模に過ぎないから、政策変更ではなく、あくまでも危機管理の対応だ。FRBが金融システムの動揺を防ぐために万全の流動性供給の姿勢を鮮明に示したことは市場に安心感をもたらした。

サブプライム・ローン問題を引き起こした米国の金融情勢についてみると、昨年秋からマネタリーベースの伸びが縮小する一方でマネーサプライの増加ペースが上昇するという現象がみられた。ゴルディーロックといわれるような長期かつ安定的な景気感に基づいて、預金金融機関の積極的な信用リスクをとる姿勢がでてきたことがその要因だろう。実際にはサブプライム・ローンの延滞率の上昇は2006年後半には始まっていたので、貸し出しという意味では企業買収向けが増加したと思われ、また回りまわって証券投資の焦点はREITなど高めのインカムゲインが狙えるものにも向かっていった。米国の経済成長が鈍ってきたことも成長に投資するより安定したインカムゲイン志向をもたらす要因だったかもしれない。

いずれにせよ、サブムライム・ローンの派生商品に端を発する今回の混乱により、そうした金融市場におけるインカム志向には冷や水が浴びせられた形となった。これまで多くの投資主体が信用リスクに対して甘くなりすぎていたことの反省が生まれていると言っても良い。今回のサブプライム・ローン問題の浮上を背景に、その他の低グレードの債権全体のクレディット・スプレッドも急速に上昇した。例として米国のB格社債の利回りと10年物国債利回りの格差をみると6月には2.3%程度に縮小していたが、1ヶ月強で急上昇し8/16には4.43%と凡そ200bp以上の拡大となった。4%以上となって落ち着いてきているのでほぼ正常化してきたと言えるのではないだろうか。

今回の信用リスク見直しの動きはリスクとリターン(イールド)の関係の見直しであり、エンロン事件などの発生による2002年の頃のような会計不信による監査や格付けへの不信も伴ったパニック的なスプレッド拡大とは性格を大きく異にしている。例えば先ほどのB格社債のスプレッドでみて6%を超えていくという事態に陥る可能性は小さいと思われる。どちらかといえば、カネあまりの構造は変化しない中で、リスクテークの比重がインカムゲイン追求=信用リスクに偏りすぎていたことが、キャピタルゲイン追求=価格変動リスクをとる方向にゆり戻されるのではないだろうか。

資金調達面をみると、社債発行コストが相対的に低格付けの企業において大きく上昇したことで、社債による資金調達やLBOに影響がでてくることは避けられないであろう。むしろ資金調達はエクイティやエクイティ・クラスに分類される手段にシフトする可能性がでてきた。とりわけ米国においては、自社株買いや企業買収などにより2006年はネットで6,765億ドル、株式から資金が流出した。

投資においても調達においても株式回帰が起きても不思議ではない。

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