増える個人向け国債のこれから

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2006年10月19日

  • 土屋 貴裕
家計の保有する国債は2006年第2四半期末時点で28兆円となり、このうち個人向け国債が17兆円と6割を占める。個人向け国債が登場する以前、家計の国債保有額は10兆円前後であったことを踏まえると、個人向け国債の発行分がちょうど上乗せされた格好で、家計の国債保有増に貢献している。この結果、国債市場全体に占める家計保有分のシェアは4.2%に上昇し、年々増加している。

国債管理政策上は、かねてより国債保有者の分散の必要性が指摘されてきた。同じ売買傾向をもつ保有者の比率が高まると、債券価格が同一方向へ過剰に変動する可能性があるためである。家計は一般に国債を長期保有するとされ、累増する国債の保有者として期待されてきた。90年代を通じて、家計の国債保有が進まなかったが、個人向け国債の登場によって、徐々に分散が進む方向にあると言えよう。

やや長期的にみると、国債市場における家計のシェアは、80年代においては6~7%程度あり、また、米国については統計の違いから直接比較できないものの、国債発行総額に占める家計の比率は14.3%である(2006年6月末、日本の家計との比較のため個人企業を合算)。本邦においても、国債市場に安定感をもたらすためには、さらなる家計の保有増が期待されるところである。

個人の公社債買越額は金利水準の影響を受け、中期的な金利先高感の存在は、家計に個人向け国債を購入するインセンティブを与える。しかし、国債を含む円建て債券全体が家計金融資産に占める構成比は、この数年でわずかに拡大したに過ぎない。家計金融資産に占める国債の比率は過去最高を更新したものの、発行減少が続く金融債との代替という側面もあったと言えるためである。そうした代替も相当程度進んできたことから、今後も家計の国債保有比率をどんどん高めていくのは容易ではない。

景気循環に左右されない長期の国債保有者の役割を家計に期待するのであれば、家計のニーズに沿った新たな商品を提供することが必要ではないだろうか。再投資が面倒な利付債ではなく割引債にし、満期もある程度選べるようにするというアイディアもある。例えば、子供の学齢の成長に合わせた3年物や3の倍数年の割引債などである。祖父母が孫の誕生に際し、将来の進学時期に合わせて18年物割引国債をプレゼントする、という使われ方が想定されるではなかろうか。

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