人々が空港に求めるものは何か

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2006年03月20日

  • 平井 小百合
心に残る映画に“ラブアクチュアリー”がある。監督は「ブリジット・ジョーンズの日記」のリチャード・カーティス、キャスティングはヒュー・グラント、リーアム・ニーソンなどの名優揃いだ。だがこれは、ただのラブストーリーではない。男女、家族、友人の“愛情”が程よく絡み合い、「この世は憎しみではなく、愛に満ち溢れている」ということが、この映画が伝えようとするメッセージである。

物語はヒースロー空港の到着ゲートから始まる。乗客が長旅を終え、空港で出迎える家族や友人と抱擁し合う。ナレーションで流れる通り、空港は人々が再会し、愛情を実感する場所なのだろう。

ヒースロー空港といえば、世界で最初に株式市場に上場したBAAが経営する空港である。BAAの株価は米国同時テロ事件などの影響で一時的に乱高下したものの、上場以来、市場平均を上回り推移している。空港をショッピングモール化したことが成功の要因とされるが、ターミナル内は所狭しと店舗が広がり、搭乗時間まで座る椅子さえ確保できない、ちょっと不便な空港としても有名である。

興味深いことは、空港はその国の政策を反映していることである。ヒースローが使い勝手の悪い空港となったのも、商業収入を原資にして着陸料を引き下げるという厳しい料金規制の中で、株主価値を追究しようとした代償かも知れない。シンガポール・チャンギやドバイ空港などは民営化されていないが、素晴らしく豪華で居心地がいい。だがそこには、国費を投入してハブ空港を発展させることが、国の経済を支えるという国家戦略がある。わが国では、成田、中部、関空の国際拠点空港は民間に委ねられ、自立経営が求められている。つまり、航空会社や旅客が空港を利用するために支払う料金収入や、空港での小売やレストラン等の商業収入により、空港の安全性、利便性、快適性を維持・向上するということだ。

映画のラストシーンは再びヒースローの到着ゲートだ。登場人物達が抱擁し合う場面で映画は終わる。日本では人前での抱擁は慣習に無いが、自然と笑みがこぼれる瞬間だろう。空港にはもともと“愛”が溢れている。実際、空港に求められるのは安全性と適度な利便性や快適性であり、それほど多くの店舗や華美な施設は必要ないのかも知れない。

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