株式分割と買収防衛策

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2005年09月08日

最近の敵対的買収事例と、それに対する金融庁及び裁判所の判断を受けて、「株式分割にはもう買収防衛策としての効果はないのか?」という質問をよく受ける。この機会に、改めて、株式分割と買収防衛策の関係を整理してみたい。

株式分割は、例えば、1株を2株にするといったように株式を細分化することである。その意味では、本来、買収防衛策としての意味はないはずである。ところが、TOBが仕掛けられたタイミングで株式分割を実施すると、TOBを妨害する次のような効果が理論上、生じることとなる。

(1)権利落ちにより、理論上、株価は分割比率に応じて下落する。ところがTOB価格は法令上、下方修正できないため、買収者は不測の損害を被る。
(2)株式分割により新株を割り当てられる者を確定する基準日と、実際に新株が発行される効力発生日には約50日のタイムラグがある。その結果、株式分割のタイミングによっては、買収者は新たに発行される新株をTOBで買い付けることができなくなる。

このうち(1)については、最近の敵対的買収事例で、金融庁と裁判所がTOBの撤回要件を柔軟に解釈する姿勢を示したことから、TOB価格の下方修正についてもある程度柔軟に解釈される余地が生じたと言えるだろう。

(2)については、これも金融庁と裁判所が、TOBによる買付けの決済期限を株式分割の効力発生日まで延長することを認めたことから、実質的に新たに発行される新株を買収者が買い付ける途が開けたと言える。ただし、最終的に買付けを完了するまでに時間が掛かってしまうという問題点は残っている。

以上の点を整理すると、株式分割には従来考えられていたほどの強力な買収防衛策としての効果はなくなったと言える。しかし、それでも買収者による買収を遅らせる効果は残っている。

ただ、東証などでは、保管振替機構に預託されている株式について、来年1月から、事実上、権利落日からの新株売買を可能とする予定である。加えて、2009年前半までには株券ペーパーレス化が実施される予定である。これらが、実現すれば、株式分割の買収防衛策としての効果は、実質的になくなるものと考えられる。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳