『公正な労働』の実現に向けて

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2005年03月24日

  • 河口 真理子

CSRとしてのサプライチェーンマネジメント

最近、企業の社会的責任(CSR)の重要な要素として、サプライチェーンマネジメントが注目されるようになってきた。これは、最終製品の製造企業の調達した原料・材料・部品それぞれが調達先の各段階において公正な労働条件下で生産されるような仕組みである。同様の概念にグリーン調達がある。これは環境負荷の小さい原材料部材を優先的に調達するもので、すでに多くの日本企業が導入している。このグリーン調達に加え、労働条件においても同様の配慮をしていく仕組みが求められるようになってきた。このサプライチェーンマネジメントが注目される契機となったのは、多国籍企業の途上国にある下請け工場での児童労働や強制労働が社会問題となったことである(※1)

公正な価格を生産者に提供するフェアトレード

これに対し、フェアトレードという考え方がある。これは、途上国の生産者が自立できる価格で先進国の消費者が生産物を購入し、途上国の経済的自立を支援するという開発援助の考え方から生まれた。具体的には途上国の生産者組合や農場で労働者を公正に扱い、環境に配慮した生産活動を行い、その生産物をフェアトレード商品として先進国の消費者に販売するというものである。カカオやコーヒー、バナナなどの一次産品を中心にフェアトレードが欧州では広がってきている。価格が通常のものより1割~2割高いという傾向はあるが、スイスではバナナの25%、英国ではレギュラーコーヒーの2割弱がフェアトレード商品といわれる。イタリアではフェアトレードのサッカーボールが昨年は16万個販売された。また英国のBBC放送、メリルリンチやドイツのフォルクスワーゲンなどはCSR活動として自社消費するコーヒー・紅茶をフェアトレード商品に切り替えている。

日本でもスターバックスやイオンでフェアトレード・コーヒーを扱い始めた。また、手編みや手織り、手染めなどの衣料品や雑貨のフェアトレード商品を扱う小規模事業者やNPOも増えている。

製造の上流と下流から公正な労働を実現

これらの2つの活動は別々のCSR活動とされているが、実はグローバルに展開されている長い生産のチェーンにおいて公正な労働を実現するための仕組みを1)上流から、2)下流から、整備していく動きといえる。CSR活動を効率的に行うためには、今後は両者をセットに取り組む戦略が必要となろう。

(※1)例えばスポーツ用品メーカーのナイキでは1990年代後半にベトナムの下請け工場での児童労働が発覚し、大きな社会問題となった。この児童労働や強制労働の問題は、ナイキ固有の問題ではなく、アパレルや部品組み立てなど労働集約的な産業の構造的問題であるという認識が欧米で広がった。現在では、多くのアパレル・スポーツ用品メーカーは途上国での公正な労働条件を調達基準に組み入れ、現地でのモニタリングを含めたマネジメントに取り組み始めている。

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