高成長のゆがみ是正に注力する中国

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2005年02月04日

胡錦濤・温家宝政権が誕生してから2年が経過しようとしている(※1)。同政権の特徴は、1)江沢民・朱鎔基政権のトップダウン型との比較で、実務者の意見を幅広く聞いて参考にする、調整型である(※2)、2)成長一辺倒ではなく、ボトルネックの改善や、従来の改革・開放政策による恩恵を享受できていない層の底上げなど、バランスの取れた発展を重視する、などである。

「バランスの取れた発展」で強調されるのは、1)三農問題(※3)の改善、2)内陸部の発展、3)循環型経済の推進、などである。これらは、中国が沿海部・都市部中心の高成長を続けた過程で発生したゆがみを是正する動きであり、今後の改善がなければ、経済の成長阻害要因となり得る問題である。胡・温政権は、問題改善に正面から取り組み、初期的な効果が出ているものもある。例えば、農業問題について、温家宝首相は2004年3月に5年以内の農業税撤廃を掲げたが、すでに22の省級行政区が撤廃を発表、この公約は3年前倒しで達成される可能性があるという。農業税減免や食糧価格上昇などを背景に、04年の農民1人当たり純収入は実質6%増と、97年以来の伸びとなった。

「循環型経済」の推進で日本のビジネスチャンスは拡大
今後、最も注目されるのは、成長の質を重視し、経済の低消耗化・低排出化・高効率化を目指す「循環型経済」の推進だろう。これは、従来の中国の高成長が資源の大量投入・消費・廃棄の上に成り立ち、資源の利用効率が低く、環境破壊を招いているとの反省に立脚している。中国は石炭へのエネルギー依存度が高いが、標準炭単位当たりのGDPは、世界平均の19%、日本の6%にすぎない。その上、石炭燃焼施設に脱硫・脱硝装置が未装備のところも多く、大気汚染が深刻化している。国家発展改革委員会は、04年11月に「省エネ中長期専門計画」などを発表し、GDP1万元当たりのエネルギー使用量を標準炭換算で02年の2.68トンから、10年に2.25トン、20年には1.54トンに削減し、資源利用効率の向上、資源再利用の促進、環境汚染の軽減を図ることを目標に掲げた。「循環型経済」は、中長期的な中国経済を方向付ける重要なテーマになる可能性を秘めているといえよう。

天然資源に恵まれない日本では、二度のオイルショックを経て、国を挙げての省エネ・省資源が徹底された結果、世界で最もエネルギー効率の高い経済・社会システムを構築した。さらに、60年代の公害問題を契機に国・企業・個人レベルで意識が高まり、環境問題は改善をみている。今こそ、その経験が中国で生かされるべきである。「循環型経済」の根幹をなす「省エネ・省資源、環境改善」は、日本が過去に直面し克服してきた得意分野であり、関連のビジネスチャンスは今後ますます拡大しよう。

(※1)02年11月の中国共産党第16回党大会で胡錦濤氏が総書記に就任し、03年3月の全人代で温家宝氏が国務院総理(首相)に就任した。
(※2)実効性向上を目的に、経済面の重要法規策定の際にたたき台を公表、各方面から意見聴取し、修正を加えた上で公布・実施するケースが増えている。
(※3)農業生産・農民収入の伸び悩み、農村の発展の遅れ。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登