日米の労働事情

2004年9月30日

~米国で広がるミスマッチの可能性~
世界各国の景気の説明変数として引き合いに出されるのが米国の景気である。そして、米景気の行方やマーケットに今、最もインパクトを与える指標は何かと言えば、雇用統計、特に非農業雇用者数の変化というのが衆目の一致するところだろう。過去一年間で市場の予想通りだったことがわずか3回程度という精度の低さも手伝い、米債券市場などは雇用統計の発表される前一週間は方向感の乏しいレンジでの推移にとどまり、結果を受けて上下に大きく振れる傾向にある。

日本では、新聞の一面を飾るのは専ら失業率Ⅰの数字である。ただ、雇用者数に比べて失業率の変化は解釈が難しい。雇用者数の場合は増加幅が拡大すれば雇用環境が良くなっていると見なされる。日本の7月の失業率は前月と比べ0.3 上昇し4.9%と5ヵ月ぶりの高さとなり、一見悪材料のように思われる。だが「雇用情勢の改善を受けて労働市場への参入や自発的な離職者が増加したことなどが大きく寄与している」と内閣府が分析しているように、今回の失業率の上昇はポジティブに解釈されている。一方、米国の8月の失業率は同0.1 低下し5.4%と01年10月以来の低水準となったが、これは労働参加率Ⅱの低下でほぼ説明できるため、雇用環境が良くなっていると過大評価するのは禁物である。なぜならば、労働参加率の低下は人々が労働市場から流出していること(非労働力化)を意味しており、統計上失業者にカウントされないクレーゾーンが膨らんだといえるからである。当然、就業者が増えれば失業率は低下するが、併せて労働参加率の変動にも目を向けるべきであろう。

労働参加率の動きを見ると、日本では97年から大幅に低下しており、景気循環に伴う変動が過去において見られた米国でも、景気が底を打ったはずの02年以降も低下トレンドをたどっている。日本の場合は、高齢化の進展や団塊ジュニア世代が結婚・出産の時期に差し掛かるといった構造的な要因も考えられよう。しかし米国では、55歳以上の高齢層の労働参加率は上昇しており、参加率低下の要因とはいえないⅢ。むしろ01年以降、高齢層の労働参加率はこの上昇トレンドから上振れて推移している。株価下落により老後の資金計画が狂ったことで、退職時期の先延ばしを余儀なくされている可能性がある。また、最低限の知識・技術水準を満たす人材が見つからずに新規採用を手控えているという企業も少なからずある。過去に比べて雇用者の増加が緩やかである原因が、需要サイドだけではなく供給サイドにもあるとなれば、ミスマッチ解消が政策課題の一つになろう。グリーンスパンFRB議長も、国内労働者の質の低下を議会証言で指摘している。

Ⅰ)失業率は、失業者を就業者と失業者の合計(=労働力人口)で除したもの。
Ⅱ)労働参加率は、労働力人口を人口(米国では16歳以上人口)で除したもの。
Ⅲ)主因は35歳未満の若年層。

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