地域・パブリック
国家戦略特区による地域経済の発展と事業機会の創出

2013年7月10日

  • コンサルティング・ソリューション第三部 主席コンサルタント 岡村 公司

国家戦略特区を創設

6月14日に閣議決定された政府の成長戦略である「日本復興戦略」では、「国家戦略特区」の創設が示されている。そのミッション(使命)は「世界で一番ビジネスしやすい環境をつくる」ことで、規制改革や税制措置を行うとともに、新しい技術やシステムによるイノベーションを創出することがそのビジョン(将来像)とされる。地域活性化だけでなく、国全体の経済成長の柱になるように、以前からある特区制度の内容を大きく刷新する方針である。

特区または経済特区とは、ある国の中で、地域および国全体の発展のために、税制や規制等に関して、法的または行政的に特別な地位を与えられている地域のことをいう。外国企業の国内進出を警戒しながらも、自国の経済発展を図りたいという意向を持つ発展途上国に多く見られる制度である。経済特区(Special Economic Zone, SEZ)の派生として、関税等の優遇措置を講じた自由貿易地域(Free Trade Zone, FTZ)、輸入促進地域(Foreign Access Zone, FAZ)などもある。

世界銀行の報告書(“Special Economic Zones: Performance, Lessons Learned, and Implications for Zone Development”, April 2008)によると、2008年当時には135カ国に約3,000件の経済特区が設けられていた。その約4分の3に相当する2,301件が119カ国の発展途上国や市場経済移行国で開設されている。

構造改革特区から本格スタート

日本の特区制度は、自由民主党中心の小泉内閣が2002年に開始した構造改革特別区域(略称:構造改革特区)から本格的に始まった。それ以前から沖縄県内に自由貿易地域などが設けられているが、その効果は限定的な範囲にとどまっていた。

構造改革特区制度では、企業等の経済活動に制限を与えている国の規制について、特区内限定で特例措置を設けて、地域経済の活性化を図るという趣旨で進められてきた。2013年5月までの累計で1,197件の特区計画が認定された。特区内に限定されていた規制の特例措置を全国展開することなどで解消された特区も多く、現存している特区は352件となっている。

2010年6月、民主党中心の菅内閣が定めた新成長戦略において、総合特別区域(略称:総合特区)制度の創設が位置付けられた。日本の経済成長のエンジンとなる産業・機能の育成に関する先駆的な取組みを「国際戦略総合特区」、地域資源を最大限活用した先駆的な地域活性化の取組みを「地域活性化総合特区」としてそれぞれ指定する制度である。2013年5月までに国際戦略総合特区が7件、地域活性化総合特区が37件指定されている。

構造改革特区や総合特区に加えて、東日本大震災で被災した227市町村では、復興特別区域(略称:復興特区)制度が運用されている。住宅、産業、街づくり、雇用などについて、地域限定の特例措置を設けて、復興を加速する狙いがある。

世界で一番ビジネスしやすい環境をつくる

成長戦略における国際戦略特区は、「世界で一番ビジネスしやすい環境をつくる」という立地競争力の強化という視点から選定される方針である。相対的に見て地方主導の色合いが濃かった従来の特区制度とは異なり、国・地方自治体・民間の各主体が三者一体となって取り組み、国の経済成長に大きなインパクトを与えるようなプロジェクトが対象になると想定している。特区内で推進されるプロジェクトを後押しするため、規制改革や税制改革等を適応する予定である。

国家戦略特区における具体的な規制改革・税制改革等の項目例として、①各国の医療免許保有者に一定の国内医療行為を認める(東京都)、②英語対応救急車、英語対応薬剤師、緊急医療相談コールセンターの外国語対応(同)、③海外トップスクールの幼小中高の誘致(同)、④地下鉄の一元化、都営交通の24時間化(同)、⑤ハローワーク就業支援部門の地方移管・民間開放(同)、⑥イノベーション特区での法人税の大幅引き下げ(大阪府・市)、⑦研究機関などに対する寄付控除の抜本拡充(同)、⑧公設民営学校の解禁(同)、⑨有料道路コンセッション特区(愛知県)、⑩航空宇宙産業クラスター形成特区での法人税の大幅引き下げ(同)、⑪農業生産法人要件の特例、信用保証協会の農業適用(中部圏の農業生産法人)、⑫病床規制撤廃、混合診療(医療法人)などが検討されている。

世界ランキングでは東京が上位に

国家戦略特区で強調されている地域の立地競争力を判断する際、以下のような都市ランキングが参考になる(図表1)。米国のATカーニー社などが公表している2012年世界都市指数(2012 Global Cities Index)では、東京が第4位、大阪が第47位にランクされている。また、森記念財団都市戦略研究所が発表した2012年世界の都市総合力ランキングでは、東京が第4位、大阪が第17位、福岡が第33位に位置する。一方、英国エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)等の2012年世界都市競争力指数(Global Cities Competitiveness Index)では、東京が第6位、大阪が第47位、名古屋が第51位にランクされている。観光や文化などの特定分野で世界的に評価されている日本の都市は少なくないであろうが、総合力で世界的に競えるのは東京や大阪などに限定されている。

図表1 世界の都市ランキング各種
図表1 世界の都市ランキング各種
(出所)ATカーニー、森記念財団、EIUの各HPより大和総研作成

いずれのランキングでも、各先進国の経済の中心地が一都市ずつ上位に位置付けられる傾向がある。今後は、中国、インド、ブラジルなどの新興国における大都市の国際競争力が高まることが予想される。

東京や大阪などにとっては、ニューヨークやロンドンと世界一を争うというような視点も大事だが、世界展開を図る大手企業や公的な国際機関などがアジア地域本部を設置する際や世界的なイベントを招致する際に競合となる、香港、北京、上海、ソウル、シンガポールなど、アジアの大都市に対して、将来的に競争優位でいることがより重要となろう。

地域経済の発展や民間企業の事業機会につなげる

政府の地域活性化統合本部会合に設置されている国家戦略特区ワーキンググループ(WG)の第4回会合(6月11日開催)資料によると、国家戦略として取り組むテーマをWGが選定し、テーマに合わせた特区プランの提案を募集し、7月半ばにかけてヒアリングが実施される予定。有望と思われる特区プランの候補をWGが選定し、8月後半以降に地域・プロジェクトが最終決定される計画である。

国家戦略特区に限ったことではないが、特区に取り組む各自治体は自らのポジショニング(位置付け)や経済発展の方向性を十分に検討する必要があろう。例えば、ニューヨーク、ロンドン、香港などと競う東京や大阪と、各地域の中核的な都市では事情が大きく異なる。人材や企業、天然資源や観光資源、交通インフラや社会インフラなど、各地特有の地域資源を有効に活用することが特区戦略の基本となろう。今後政府が打ち出していくであろう、規制改革、優遇施策、予算措置などとも連動しながら、いかに地域経済の発展につなげていくかが問われる。

一方、民間企業にとっても大きな事業機会になる可能性がある。特定の規制緩和が先行的に実施される特区内で新事業を立ち上げ、事業実績を積む。将来的に規制緩和が全国に適応されるようになったら、その事業の全国展開を図るという戦略が考えられる。将来的な事業性を推計し、具体的なアクションプランを策定した上で、今後の市場環境等に応じてそのプランを実践していくことが重要になる。

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